第474話 ことの成り行きを話そうぜ
「ところで、エカイユ以外の種族はどうなんだ? 協力してくれそうか?」
その質問に、みんな黙り込んでしまう。
「あんまり首尾はよろしくないみたいだな」
「ご主人様がいない間も、獣人のみんなが説得に動いてくれたのですけど、どの種族もそれぞれ問題を抱えていて、そう簡単に手を結べる感じじゃないのです」
「ふむ。それはよろしくないな。俺は一応、この国の使者としてジェルドの女王から頼まれていることがある」
「それは?」
「亜人の統一だ。形だけの亜人連邦を、実質的な国家にする」
きらりと、ルーチェの目つきが変わった。
「どうしてジェルドの女王がそんなことを?」
「王国との緩衝地帯としてもっと強くなれ、ってことらしい。真意はどこにあるかわからんけど」
「王国とマッサ・ニャラブは仲悪いですからね……戦争に利用されるのは癪ですけど、今のボク達の立場じゃ従う他ありません」
「支援してもらってるんだってな」
「はい。正直、マッサ・ニャラブからの支援なしでは生きていくのも厳しい状況です」
「キンタマ握られてるってわけか……」
「そうですけど。なんかその表現は品がないのです」
たしかに。
「アルドリーゼ……ジェルドの女王は帝国と仲よさげだったけどな。実際、今の国家間のパワーバランスってどうなってんだ? その辺、あんまりよくわかってないんだわ」
「そういうのは、メイド長が詳しいのです」
場の視線がルーチェに集まる。
「あはは。別に詳しいってわけじゃ……私は帝国貴族の娘だから、それなりに情報が得やすいってだけで」
「アドバンテージとしてはかなりのもんだろそれは」
「それもそっか」
ルーチェはかわいらしく苦笑する。
「それじゃあ、説明するね」
「頼む」
こほん、と咳払いを一つ。ソファの上で、ルーチェは膝に手を置いて語り出した。
「まず戦争の発端なんだけど、それを話すにはまず王国でクーデターが起きたことを前提に置かなくちゃならないんだ」
「親コルト派の蜂起だな」
「うん。親コルト派の当主サミュエルは、もともと王国軍の武器や兵器を製造する部門の責任者だったの。当時の王国のやり方に不満を持っていた将校達と結託して、反旗を翻した。それが俗に言うコルト・クーデター。リッバンループで行われた大将軍ムッソーと護国の英雄エルゲンバッハの戦いは、王国史上最大規模の一騎討ちだったって言われてる」
都市一つが消滅したんだもんな。どえらいことだ。
「最後まで決着はつかなかったんだけど、クーデターが失敗したっていう点では親コルト派の負けになるのかな。親コルト派は国外に姿を消し、そして、疲弊した王国が残った」
なるほど。あのクーデターの結末はそんなことになっていたのか。
あの戦いではたくさんの難民が出ていた。ただ不幸な人間を生んだだけの戦いだったわけだ。くそだな。
「そこから、今の戦争に繋がるのか?」
「うん。ちょうどその時、ジェルド族の軍がアインアッカ村に侵攻してたよね? いま私達がいる、まさにこの場所だよ」
まじか。
「この砦は、アインアッカ砦っていうのです。ご主人様の故郷の名前を残したくて、ボクが名付けました」
サラが申し訳なさそうに言う。
故郷の村をこんな軍事拠点にしてしまったことに対してだろうか。
「そうか。ここが……」
エレノアの奴はなんて言うかな。いや、あいつはもう知っているのか。ここが亜人連邦の首都であると。
もともとこの村に住んでいた人達のことが気になるが、今は話を進めることを優先しよう。
ジェルド族率いる、マッサ・ニャラブが戦争を起こした話を。
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