第459話 なんでもわかる
「あの子は必死に訴えてたよ~。ロートス・アルバレスという人物がこの子の父親で、ジェルド族の救世神だって。なんか天啓でも受けたのかな~って、当時はけっこう騒ぎになったもんだよ~」
「それで、処女懐妊だと?」
「そゆこと~。だって父親が神様だっていうんだよ~? 当時のアインアッカ村の状況からしても、そう考えるのが妥当じゃない~? ま、そういうわけであの子は里で大切にされてるってわけなんだ~。そっちの方が安心でしょ~?」
「まぁな……」
話を聞く限り、オルタンシアが俺の案内人としてグランオーリスに行ったことは無かったことになっているみたいだな。
オルタンシアはずっと村にいて、神の子を孕んだと。なんとも奇怪な話だ。
「だからこの子は特別なんだよ~。神の血を引く子。実際、この子のおかげで余達ジェルド族はマッサ・ニャラブの覇権を取ることができたし~」
「マッサ・ニャラブの覇権ってのは、どういうことだ」
「この国にはジェルド族だけじゃなくてね~、いろんな民族部族がいるんだよ~。ちょっと前までは権力争い的なことをやってたんだけど~。結局うちが取っちゃった。この子の示す道を進んだ結果だね~」
「さすがは救世神の娘だな」
「そんな時にキミが現れたんだよ。ロートス・アルバレスくん」
アルドリーゼの声色が、急に真面目なものになった。
「キミはいったい何者なのかな? 忍び込むのが上手いだけの種馬? それとも、本当にジェルドの救世神さま?」
「さぁな。自分でもよくわかってねぇ。あるところじゃ『無職』と呼ばれたし、あるところじゃアルバレスの御子だとか、失敗作だとか、もしくは〈尊き者〉とか。ジェルドじゃあ救世神でもあり種馬でもあったぜ」
自分が何者か。そんなことに興味はない。
重要なのは俺が今まで何をやってきたか。そして、これから何をするか。何の為に生きるかだ。
何者かなんてのは、俺の生き様を見た周りの奴らが勝手に決めたらいい。
「とにかく、里についたら真っ先にオルたそに会わせてくれるか。話したいことがたくさんある」
「いいけどさ~」
のほほんとした調子に戻ったアルドリーゼは、腕の中のアナベルをよしよしした。
「ね~アナちゃん~。この人は余達の味方なのかな~?」
「うん!」
「そっかそっか~。じゃあ、救世神っていうのも本当だと思う人~?」
「はぁーい!」
アナベルは手を挙げて肯定している。
ほんとに全部わかっているのか? わかっているとしたらすごい。
「なるほどね~。この子がそう言うなら、そういうことなんだろ~ね~」
「なんつーか。適当だな、いろいろと」
まぁ、俺にはわからない何かがあるのかもしれないけどさ。
フォルティスがぶるぶると鼻を震わせる。
寒いのかな。
そんなこんなで、ついに俺はジェルドの里へと到着することとなった。
早くオルタンシアに会いたいぜ。
可及的速やかにな。
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