第446話 夜だ
深夜。
俺はロロを連れて連邦南部の集落に向かっていた。
メリーディエスと呼ばれるその集落には、エカイユという種族が住むらしい。
なんでも、固い鱗で全身を覆われた好戦的な種族だとか。リザードマン的な感じかな?
「どうやったら一番悪そうに見えるだろうな?」
俺はフォルティスを駆りながら、抱えるロロに尋ねる。
「うーん……亜人はみんなそうだけど、エカイユは特に今まで差別されてきた鬱憤が溜まってると思うぜ。自由になったエカイユの連中なら、人間の姿を見ただけで怒り狂うんじゃねぇか?」
「俺が行けば勝手に悪者扱いしてくれると」
確かに歴史を顧みれば、亜人にとって人間は悪の権化みたいなものだろうな。
「それなら話は早い。悪者を演じるのは心苦しいが、サラの為に心を鬼にするか」
「んなこと言って。声が楽しそうじゃねぇか、アニキったら」
「そんなことはない」
夜は更けている。
朝が来れば俺が集落を襲撃し、遅れてやってきたサラがそれを助けるという算段だ。
マッチポンプも甚だしいが、時にはそういう策も必要だろう。
夜が明けるまでは、どこかで適当に待つか。
サラから渡された魔導地図と魔導照明のおかげで、夜でも快適にフォルティスを走らせることができる。
魔導具ってすごい。
集落に近づくと、小高い丘の上で休憩をすることにした。フォルティスを木に繋ぎ、幹にもたれかかって座る。
「ここで夜を明かすか」
「アニキ、これ使おうぜ。夜は冷えるだろ」
ロロがフォルティスの鞍に取り付けた荷袋から毛布をもってきてくれる。
二人で一枚の毛布に包まれ、俺とロロは身を寄せ合った。
「なぁアニキ。オイラだって人のこと言えねぇけど、アニキって相当なワケありだよな」
「ん。そうかもな」
「アイリスとか、あのサラって人とか、アニキは知ってるんだろ? でも向こうは知らないって、どういうことなんだ?」
「……話すと長くなるが、聞いてくれるか?」
「おうよ。聞かせてくれよ、アニキの話」
俺は今までの話をかいつまみながら、話をした。
転生してからのこと。
『無職』宣告されて魔法学園に入ったこと。
出会った人達のこと。
そして、神々と世界の真実を。
最後まで聞き終えたロロは、当然のことながら呆然としていた。
「なんつーか……話がでけぇんだな」
ロロの小さな頭が俺の肩に乗る。
「大切な人に自分のこと忘れられるって、どんな気持ちなんだ?」
「どうだろうな……俺にもよくわからん」
「もしおっかちゃんやおっとちゃんが生きててさ。オイラのこと忘れちまったら……泣いちまうよ、そんなの」
束の間の沈黙。
夜の星は驚くほど綺麗だ。
「つえーんだな、アニキは」
「希望を失わなけりゃ、強くいられるのさ。俺はみんなの記憶を取り戻してみせる。必ずな」
「できんのか?」
「できる」
「方法もわかってねぇのに」
「できるんだよ」
必ずやると決めてるんだ。
「希望は常に自分の中にある。他から与えられるもんじゃない。全部、自分で決まるんだよ」
これは俺自身に言い聞かせる言葉でもある。
挫けそうになる心を叱咤し、前進の力へと変える為に。
「ほんと、アニキはつえーよ」
「一緒だ。俺もお前も」
俺達はお互いの体温を感じながら、静かな眠りに落ちていった。
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