第410話 ここまでが第三部の導入ちゃいます?
マーテリアのやつめ。
世界の調和を整えるために、致命的な矛盾を作り出してしまったな。
まぁ、俺が戻ってくるなんて考えてもいなかったんだろう。俺が戻ってきたこと自体、神の意思を超越する出来事だったわけだからな。
こうなりゃ、一刻も早くみんなに会いに行かないとな。突破口があるとしたら、俺と強い繋がりがあった人だろうから。
そうと決まれば話は早い。
「よし。オーサ、馬をくれるか。そろそろ行こうと思う」
「もうでやんすか? さっきまでやりまくってたのに、疲れてないでやんすか……?」
「やりまくってたって……そうだけどもうちょっと言い方があるだろ。女子なんだから」
「女子なんて歳じゃないでやんす」
どこからどう見ても幼女なんだけどなぁ。エルフの年齢感覚はわからん。
「まぁ、疲れてはないぞ。体力はあるからな」
はぁ~、とオーサは感心しているようだった。
「流石はキマイラを一刀のもとに切り伏せる男でやんすね」
「それほどでも」
実は、驚いているのは俺も同じだった。精力が強すぎる。単純計算で連続百回の発射を行ったわけだが、萎えるどころかまだまだこれからだって感じのそそり立ち具合だった。
これはおそらく、修行の成果だと思う。常識を越えた鍛え方によって、桁外れの精力を手に入れたのだろう。
ふざけた話じゃない。
精力が強いということは、単純に肉体が強いということに直結するからだ。
スキルや魔法で肉体を強化しても、こうはならないだろう。〈妙なる祈り〉でも同じだ。
つまり、俺の力は純粋な強度からきているということになる。
人っていうのは、鍛え方次第でここまでのものになれるんだなぁ。
「あいわかったでやんす。すぐに馬を準備させるでやんすから、ちょいと待っててくれでやんす」
「すまんな。急かしちまって」
「気にすることはないでやんす。こちらの頼みを聞いてもらったのが先でやんすから」
にぱっと笑って、オーサは家から出ていった。
ふむ。
思ったんだけど、これから生まれてくるエルフって、全員俺の子どもってこと? いつのことになるか分からないけど、エルフ全員に俺の血が入っていることになるんじゃ?
深く考えていなかったけど、それはやばいな。
全てのエルフの父になっちまう。
やってしまったものは仕方ないから、腹は括るけどさ。
扉が開き、オーサが戻ってきた。
「ロートス。待たせたでやんすな」
「あんまり待ってないよ」
「こっちに来てくれでやんす」
オーサに手招きされ、外に出る。
仏頂面の副長が、立派な馬を二頭引いていた。
「おお」
思わず声が出る。
精悍な漆黒の馬と、気品に満ちた白馬。かっこいい。
「私の馬だ。好きな方を選ぶナリ」
「いいのか?」
「キマイラを討ち、種の存続にも手を貸してくれた。これでも足りないくらいナリよ」
副長は不機嫌そうに腕を組み、顔を背ける。
「なんだよ。ツンデレか?」
「うるさい。早く選ぶナリ」
うーむ。どっちにしようかな。どっちもかっこいいけど。
「決めた。黒い方にする」
「一応理由を聞いておくナリ」
「俺に白馬は似合わないだろ?」
「間違いないナリな」
王子様って柄じゃないしな。
「早速乗るぜ」
言いながら、俺は乗馬する。
「こいつの名前は?」
「フォルティス。ちなみに雌ナリよ」
「おう。よろしくな。フォルティス」
俺が首の裏を叩くと、ぶるぶると鼻嵐を鳴らす。
「言っとくナリが、貸すだけナリ。用が終わったらちゃんと返しに来るナリよ」
「わかってるって」
「エルフにとって馬は貴重でやんすからな。乱暴に扱わないでやってほしいでやんす」
「了解だ。大切にするよ」
俺が旅立つとなると、里中からエルフが集まってきた。
さきほど抱いた子達もいる。
「じゃあ、行ってくる」
「気を付けるでやんすよ。なんでか知らんでやんすが、ロートスは人間なのにうちの子達から好かれるようでやんす。ちょくちょく顔を出して欲しいでやんすよ」
「ああ。そうするよ。俺もみんなのお腹が気になるしな」
たぶん、二年前の出来事が影響しているんだろう。俺が『清き異国の雄』であることを本能で感じ取っているのだ。記憶にはなくとも、魂は憶えているにちがいない。
「それじゃあな!」
俺はフォルティスを走らせる。
爽快な加速感に乗って、里を飛び出した。
エルフ達が名残惜しそうに手を振っている。
後ろ髪引かれる思いだが、俺にはやるべきことがあるからな。
会わなきゃいけない人だっている。
「目指すは王都ブランドン。魔法学園だ」
俺はフォルティスを駆り、エルフの森を駆け抜けるのだった。
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