第405話 リスポーン地点ここかよ

 目を開くと、そこはクリスタルの中だった。


 おいまじか。息ができない。

 そもそも身動きが取れない。そりゃそうだ。かったいクリスタルの中に閉じ込められているんだから。

 窮屈。焦りと不安が押し寄せる。


 サラがクリスタルの中にいた時もこんな気持ちだったのかな。

 いやいや、のんきなことを考えている場合じゃない。このままじゃ窒息死するぞこれ。転生直後に死亡はさすがに笑えない。


 危機感を覚えた矢先、強烈な衝撃が訪れ、クリスタルが木っ端みじんに砕け散った。

 俺は宙に放り出され、そのまま床に着地する。


「いてて……」


 クリスタルの破片でケガをしなかったのはラッキーだ。

 立ち上がると、目の前にはクリスタルを割ったであろう張本人が佇んでいた。

 ぼろ布を身に纏った小柄な少女。その頭に顔はなく、まさにのっぺらぼうである。


「キミはたしか……」


 コッホ城塞でマシなんとかと戦った時に、俺が壁にめり込ませた子だ。

 ということは。

 俺は周囲を見渡す。


「ここって、コッホ城塞か?」


 見覚えのある場所。

 たしか『臨天の間』と呼ばれていた大伽藍だ。


「戻ってくる場所がこことはなぁ。因縁を感じるぜ」


 独り言に反応して、のっぺらぼうの少女がぺこりと頭を下げる。

 彼女は畳んだ衣服を抱えていた。それを差し出してくる。


「俺の服?」


 頷く少女。


「そっか。今の俺、全裸か」


 そうなのだ。

 今の俺は全裸。立派なムスコを放り出している状態だった。

 とはいえ、立派なのはイチモツだけではない。身長は伸び、筋肉もしっかりついている。成長したロートス・アルバレスとしての肉体は、過去より精悍かつセクシーになっていた。


「さんきゅな」


 少女から受け取った服を着てみる。

 上質な生地であることはすぐにわかった。さらに、デザインもいい。柄の入った緑色のマントが旅人チックである。


「よし。ここを出るぞ。出口まで案内してくれ」


 とにかく急がないとな。

 コッホ城塞が今どこにあるのかを確認しないと、これからの計画も立てられない。

 しかし、少女はふるふると首を振った。


「なんだ? だめなのか?」


 コクコクと頷く。


「なんでだよ」


 少女は壁を指さす。そこには俺がこの子をめり込ませた痕が残っていた。

 次に、少女の指が俺に向く。そして、両腕でバツ印を作った。


「言わんとすることはわかるけどよ……」


 これで分かった俺もどうかしていると思うが、分かってしまうのだから仕方ない。

 端的に言えば、今の俺は弱いということだろう。

 あの時の超人的な強さは奪われてしまったからな。

 〈妙なる祈り〉を失い、クソスキルの一つさえ残っていない。

 使えるものといえば、簡単な初級魔法くらいだ。


 少女はどこからともなく木の棒を持ち出した。そして俺には、一振りの剣を差し出す。


「おいおい……のんびり修行なんかしてる暇なんかないんだって」


 そりゃ強くなった方がいいのはそうなんだけどさ。ただでさえ二年間も放置してたんだ。一分一秒でも急がないと。

 しかし少女は譲らない。頑なに修行を勧めてくる。

 彼女のジェスチャーには、二年も待たせているんだから多少伸びたところで変わらない、という意図が込められていた。

 いやそうかもしれないけど。


 うーん。

 仕方ない。

 修行しないと、ここから出してくれそうもないようだから、大人しく修行するか。


 何故かはわからないけど、俺は不思議とそんな気分になっていた。

 本来なら一目散に駆け出していくつもりだったのに。自分でも不思議な感覚だ。


 そういうわけで、俺は少女を師匠として剣の修行に励むこととなった。

 まぁ、どのみち力は必要だしな。

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