第391話 ノームってなんやねん

「何も存在しなかった無の世界。それは原初の世と記されておりました。その永遠とも思われた原初の世に、三条の光が差し込んだのです」


 まるで祝詞のように語るアン。


「万象の光マーテリア。法理の光ファルトゥール。そして生命の光エンディオーネ。意思を持った光はそれぞれ三本の柱となって、虚無の世界に熱を与えたもうた」


 聞き捨てならない名前が出てきたな。


「三柱の女神は、力を合わせ、この世界に黎明をもたらしたのです」


「ちょっと待った。質問いいか?」


「どうぞ」


「俺が聞いた話によるとだな。この世界を創ったのはファルトゥールなんだけど。他にもいたのか?」


「ロートス様が仰ることも間違いではございません。ファルトゥールはれっきとした創世の女神。しかし、単身で世界を創り出したわけではありません。しかし、ファルトゥールがそのように振舞う理由にはわけがあるのです」


「わけ?」


「神話の続きです。女神によって創り出された世界には、やがて生命と呼ばれるものが生まれました。生命の光エンディオーネが振りまいた命の種が、芽吹いたのです。永い時を経て、ついに生命は知恵を獲得しました。そうやって、今は古代人と呼ばれる古い人類が誕生したのです」


「最初の人ってわけか」


「そういうことです」


 ううむ。

 創世の女神はファルトゥールだけかと思っていたが、どうやらそれすらも俺の勘違いだったらしい。というか騙されていたのか?

 エンディオーネがファルトゥールを倒そうとしている理由も、神話を紐解けば明らかになるかもしれない。

 それに、もう一人の女神のマーテリアってのも気になる。ファルトゥールとエンディオーネが争っているってのに、どうしてそいつは出てこないんだろうか。

 謎は深まるばかり。


「古代人が隆盛を誇った時代。彼らの繁栄に呼応するように、世界各地に新たな種族が現れました。獣人、エルフ、ドワーフ、フェアリー、ノーム。様々です」


「つまり亜人だな」


「そうです。もともと古代人がいて、その後に生まれたよく似た種族。ゆえに亜人と括われたというわけです」


 なるほどなぁ。


「その後、古代人を中心にしばらくは平穏な時が流れました。共生、共存。争いはなく。穏やかな日々であったと記録に残されています」


「そういう風に言われると、次に来る不穏な出来事を予期しちまうな」


「お察しの通りです。この平穏は永遠ではありませんでした」


 アンはこころもち沈んだ声色で、続く言葉を口にする。


「ある時、ノームの長が種族を率い、それまで境界のなかった土地に、国という囲いを作ったのです。彼らは内部の他種族を攻撃、排除し、ノームだけの楽園を築き上げようとしました」


 なんだって。

 ノーム最低だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る