第387話 祈りの訳
俺は腕を組んで首を捻る。
これは言葉を吟味する必要があるな。
「サニーの言った通り、それはもともと人に備わっていた力なんだよ。俺が聞いた話だと、人の運命ってのはそれまでの意思や行いによって決まるらしい。だから、これからの行動で未来の運命を変えることができるのは当然だ。それがサニーの言う意志の力。俺の周りじゃ〈妙なる祈り〉って呼んでる」
「運命を変える力……」
「ああ。だけど、最高神エストが生まれたことでその力は人から失われたんだ」
「なぜだ?」
「スキルっていうのは人の運命を補強するものなんだってさ。だから、一度決まった運命を変えることが限りなく難しくなる。恵まれた者はより恵まれ、不幸な者はより不幸に。そういう風になっちまってるんだよ」
改めて考えるとまじで最低だな、エストって。
「じゃあなにか。ロートスの言う〈妙なる祈り〉というのがあれば、誰でも強くなれるっていうことなのか? エストが生まれる以前の人というのは、それほどに強い存在だったのか?」
「いや……」
そういうわけでもないんだろう。
「強かったのは確かだと思う。けど、俺やサニーみたいな異常な強さはなかったんじゃないか? 俺達の強さは道理に反してるからな」
「どういうことだ?」
「これは俺の推測、っていうか直感みたいなもんだけど。たぶん、一人一人の〈妙なる祈り〉っていうのはそこまで大きな力じゃないんだと思う。いや、運命を変えるんだから大きな力には違いないんだけど、俺らみたいにこの世界の法則を超越したりはできないんじゃないかなって」
「なら、どうして俺達にはそれがある?」
「失われた一人一人の力が、集まってるんだろうよ。俺とサニーに差があるのは、その数の差だろうな」
おそらくサニーには、グランオーリスの冒険者の力が集まっているんだ。
それに対して俺は、この世界の全人口分が集まっている。それに加えてエンディオーネの加護もついているからな。そりゃ俺はチートだわ。
「合点がいった。なんとなく理解できたぞ」
サニーは頷く。
これで理解してくれるのはかなり頭がいいと思う。
「神から与えられたスキルと職業が偽りだという俺の考えは、間違っていなかったんだな」
「うん」
自らの努力だけでそこに思い至ったサニーはすごいわ。
ところで。
「サニーの話を聞いてなんとなく思ったんだけどさ。あの神の山」
俺は遠方にそびえる雪山を見据える。
「エスト誕生の秘密というか。エストを倒す方法っていうのが、あそこにありそうなんだよな」
俺がそう言うと、サニーは驚いた風にこちらを向いた。
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