第363話 目的をはっきりさせておこうよ

 大きな船の上。

 渡河客で賑わう甲板の上で、俺とオルタンシアは並び立って向こう岸を眺めていた。


「グランオーリスって、どんな国なんだろうな」


 なにげなしに呟く。


「冒険者が興した国ですから、他の国に比べて彼らの地位が高く優遇されていると聞きます」


「へぇ? そうなのか?」


 王国じゃ、冒険者は下賤の輩だと馬鹿にされているのにな。主に貴族から。


「はい……でも、その分冒険者になるためには、とても難しい試験や長い訓練期間を乗り越えなければならないと、そう聞きます」


「ハードル高いんだな」


 考えてみればそうだよな。

 優遇される人間はそれなりに実力や実績を出してないといけない。

 ただ、その実力もスキルによって左右されるってなると、なんとも言いがたいものがあるな。


「マッサ・ニャラブとグランオーリスは仲いいのか?」


「どちらも新興国ですから、比較的友好です。向こうが自分達と違うのは、王国とも国交があるということだと思います」


「ふーん」


 マッサ・ニャラブと王国の歴史を考えれば仲が悪いのは当然として、グランオーリスが王国が仲良くしてるのはなんでなんだろうな。

 王国的には、グランオーリスと仲良くしてたらマッサ・ニャラブへの牽制になるとかそんなんかな。

 つっても政治とか興味ないわ。


「あの……種馬さま」


「ん?」


「マント。そろそろ、脱ぎますか?」


「いや。このままでいい」


 俺とオルタンシアは、マントで全身を覆ったままだ。フードもつけている。

 砂漠からやってきた人達の中には、同じような格好をしている者も多いので、別に目立ってるというわけじゃない。


「っていうのもな」


 俺はオルタンシアにすっと顔を近づける。


「グランオーリスでは素性を隠そうと思ってる」


 ぴくんと硬直したオルタンシアの耳元で、囁いた。


「ど、どうしてですか?」


「思ったんだよ。俺ってなんか謎に有名人なところあるからさ。それがいい風にはたらくこともあれば、逆もある。だから極力、俺がロートス・アルバレスであるってことを隠そうと思うんだわ」


「……わかりました。じゃあ、自分たちはマッサ・ニャラブからの旅行客という体を装いますか?」


「だな」


「ところでなんですが……グランオーリスには何をしに行くのです?」


 ああ。そういえば言ってなかったか。


「王女のセレンに会いに行くんだ。俺の仲間なもんでな。戦争で離れ離れになっちまったから、はるばるってわけだ」


「それって……」


 オルタンシアは金の瞳をキラキラと輝かせる。


「素敵。まるで、おとぎ話みたいです」


「そんな色っぽい話じゃないさ」


 いや、色っぽい話なのか?

 セレンが鍵かもしれないということは、あいつが俺に惚れているという前提だ。

 あいつがどう思っているかは知らないから、それを確かめにいく意味もこめて、だな。

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