第356話 分岐点となる問い
「おわ」
念話灯の着信だ。
「もしもし」
俺は何の気なしに念話を受ける。
『もしもし?』
エレノアの声だ。
あれ? 俺エレノアと通じる念話灯持ってたっけ。
「どした?」
『どしたじゃないわよ。あなた今どこにいるの? サラちゃんとアイリスが探してるわよ』
「あー……すまん」
そういえば誰にも言わずに出てきたんだっけか。
「今、マッサ・ニャラブの砂漠にいる」
『はぁ? なんでそんなとこ』
「事情があってな。セレンを探しに、グランオーリスに向かってる」
『セレンって……あのおとなしそうな子? 相変わらず先走ってるわね』
「なに。今度はちゃんと考えあってのことさ」
『だといいけど』
エレノアはいつもよりほんの少しよそよそしい。
先日の会話のせいで気まずいんだろう。
俺はあんまり気にしてないんだけどなぁ。
「悪いがサラとアイリスにはしばらく留守にするって伝えてくれ。もしよかったら二人の相手をしてくれると助かる」
『……それは別にいいけど。あなた、今ひとりなの?』
「いや。マッサ・ニャラブの案内人と一緒だ。砂漠を越えなきゃならんからな。地元の人間が一緒じゃないと不安だろ?」
『そう。無理はしないようにね』
「ああ。ありがとな」
それから、少しの沈黙があった。
「『あの」』
奇しくも、まったく同時に声が重なった。
「おう。なんだ?」
『ううん。そっちから言って』
「いや、いいよ。エレノアから喋ってくれ」
『ありがと……あのね、このあいだのことなんだけど』
躊躇いがちに、ほんの少し声を小さくして、エレノアは話を切り出した。
『あれから頭を冷やして、私なりに色々考えてみたの』
「うん」
『やっぱり私、あなたが他の女の人と仲良くしてるの、イヤだわ。そういうのを見てると胸がザワザワするし、私のいないところで仲を深めてるんだろうなって考えると、いてもたってもいられなくなって、でも、どうしたらいいのかわからないから、どんどんストレスが溜まっていって』
「……うん」
『でもね。私、それでもいいかなって思ったの。この先ずっとそんな思いをしながら生きていけるかは自信ないけど……けど、あなたを好きでい続ける自信はあるから』
「エレノアおまえ……」
『子どもっぽいかしら? 現実的じゃなくて、後悔する考え方だと思う?』
「いいや。そんなことはないさ。それに、子どもみたいなワガママを言ってるのは俺の方だしな」
『あはは。そうね』
明るい笑い声だった。いつもの調子が戻ってきたかな。
『転生してみて思ったわ。子ども時代を二回過ごしても、大人にはなれないって』
「だろうな。人として成長するには、重ねた年月の数だけじゃ足りないってことだろ』
それは俺も実感した。転生前を含めて三十年分の記憶はあるが、だからといって俺が三十歳のいい大人になれている自覚はない。まだまだガキの思考回路のままだ。
『そうね。そうよ。こういうことって、私達二人だけにしか分からないことでしょう? ほら。元の世界の話とか。そういう部分で、本当の意味で理解し合える人と一緒になりたいっていうのもあるのよね』
元の世界か。
今の俺には、えらくタイムリーな話題だな。
「なぁエレノア」
『なに?』
「お前さ。元の世界に戻りたいって、思うか?」
俺にとっても勇気のいる質問だった。
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