第347話 オルタンシア
それから数十分の時間が経過した。
アルドリーゼのテントの中でごろごろしながら待っていると、入口がばさりと音を立てて開かれた。
「や~い。お待たせ~」
風呂上りのほかほか感を纏ったアルドリーゼが現れた。後ろに、小柄な少女を伴っている。
「いちお~探してみたけど~。たぶんこの子なら種馬くんの希望に沿えるんじゃないかな~」
ふむ。
アルドリーゼの背中に隠れるように立つその少女をじっと見つめてみる。
年の頃は十代前半といったところか。ジェルド族特有の褐色の肌。紫の髪は、シャギーの入ったベリーショート。細い四肢は未発達な感じで女の色気を感じさせないが、それでも女の子だとわかるほどには肉付きがある。無論、おっぱいもお尻もコンパクトだ。ボーイッシュというより中性的って言葉が似合うかもしれない。
長いまつ毛に縁取られた金の瞳はどこか不安げで、彼女が内気であることを思わせた。
「しっかしね~。案内人だってのに気の弱い子がいいってどういうことなの~? ふつうしっかりした子を寄こせって言うんじゃない~?」
「気の大きさとしっかり度は関係ないだろ。気が弱くてもしっかりしてる子はしっかりしてる」
「一理ある~」
俺は案内人の少女に近づき、すっと右手を差し出した。
「ロートス・アルバレスだ。急な話ですまないが、よろしく頼む」
少女はおずおずと前に出てきて、目を伏せて俺の手を両手で握った。
「オルタンシアと、申します。誠心誠意、案内役を努めさせて頂きますので……何卒よろしくお願いいたします。種馬さま」
聞いた三秒後には忘れてしまいそうな力のない声だった。思わず聞き返しそうになったが、なんとか聞き取れたのでぐっと我慢する。
しかし。種馬さま、ね。なんて素敵な呼び名だ。
「その子はね~。いちお~余のイトコなんだ~」
「王族かよ」
「でもあんまり気にしないでいいよ~。ジェルド族の女王は世襲制じゃないからね~」
なるほどね。血筋じゃなく実力で女王を決めるのか。
「だから~、道中気が向いたら孕ませてあげて~。もう子ども作れる身体だから~」
いやいや。待てって。
俺が言うのもなんだが。
「あんまり生々しいことを言うなよ……」
オルタンシアは顔を真っ赤に染めて俯いてしまっている。そりゃそうだろ。
会ったばかりの男に孕まされるかも、なんて思わせちゃ可哀そうだろうよ。
「あ、あの……種馬さまさえよろしければ、ぜひ、お願いします。不肖オルタンシア。精一杯、お相手させて頂きます……ので」
まじか。
こんな気の弱い子でも男を受け入れる覚悟の言葉を口にするとは。
文化の違いってやつをまざまざと見せつけられたな。
うーん。
ほんとにいいのかな。
「ま~気楽にね~。別に孕ませたらからって夫婦になれなんて言わないしさ~。余たちジェルド族にとっちゃ~子どもが産めるだけ万々歳よ~」
そりゃまぁそうなんだろうけど。
「そんな余裕があったらな」
急いでいるのは本当だから、時間の猶予もあまりないのだ。
「早速出発しようと思うけど、準備はいいか?」
「は、はい。いつでも出られます」
「よし」
俺は気合を入れ直し、自分の頬を叩く。
「サンキュな、女王様。この借りはいつか返す」
「そいつは楽しみだ~。一族が繁栄するね~」
種馬になることは確定なんだな。
まぁいいけどさ。
「それじゃ、出発だ」
グランオーリスまで、超特急で向かうぜ。
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