第327話 てぇてぇ亭、再び
それから数時間、何が起こったのかは想像にお任せする。
ところで、その日の夕食は『てぇてぇ亭』でとることになった。
なんだか久々に来たような気がする。
サラとアイリスが隣り合って対面に座っている絵面も久しぶりだ。
「やっぱりここのお料理はおいしいですわ」
「だよね。しばらく何も食べていなかったから格別だよ」
デラックススペシャルディナーとやらを注文したのは、サラの快気祝い的な意味合いもある。
「サラ。お前クリスタルの中にいた時の意識ってあるのか?」
「はっきりとは憶えていないですけど、夢を見ているような感覚だったのです。いろんな人の想いや考えが流れ込んでくるような」
サラはもぐもぐしながら喋っている。
よくわからないな。
あれかな。
神族会議に招かれた時、あの場所は集合意識の精神世界のようなものだと言われたっけな。
もしかしたらサラも、何らかの精神世界に行っていたのかもしれない。
「コッホ城塞でのことは……」
サラは口の中をものを吞み込んでから、弱々しい笑みを浮かべた。
「知ってます。ボクの魔力がたくさんの人を殺してしまったこと」
「サラ」
「大丈夫です。ボクは開き直れますから」
漏らした苦笑が痛ましい。
「あれは女神のせい。ボクのせいじゃない。ご主人様だってそう言ってくれますよね?」
「もちろんだ。サラのせいじゃない。むしろお前は被害者だ。ひどいことに利用されたって、被害者ヅラしていればいい」
サラを利用しようとした機関の自業自得だしな。
「ご主人様がそう言ってくれるなら、ボクにとってはそれがすべてです。心の底からそう思えます」
こう言っているが、罪悪感がないわけじゃないだろう。だから俺の言葉を支えにしているのだ。
「俺はお前の主人だ。お前がやったことの責任は全部俺にある。だから、気にするな。なにもかも俺に押し付けときゃいいんだ」
「はいっ。そうします! 全部ご主人様のせいです!」
いや、それでいいんだけどね。そうはっきり言われるとなんかちょっとあれだよな。それでこそサラって感じもするが。
「実を言うと、亜人のみんなの事が気がかりですけど……」
「ああ。亜人連合か。結局あれってどうなったんだろうな」
亜人連合そっちのけで、王国軍と親コルト派が戦っているみたいだけど。
あ、そうだ。
「シーラ。いるか」
「ここに」
俺が呼ぶと、まるで最初からそこにいたかのように傍に現れる。シーラは片膝をつき、頭を垂れていた。
「亜人連合は今どうなってる」
「事実上の解散状態です。マクマホンがいなくなったことで帝国の後ろ盾がなくなり、戦闘を継続できなくなっています。亜人のほとんどは、もとの生活に戻っているか、そのままカード村に移住しています。王国軍も、親コルト派への対応で、亜人連合を相手にしている余裕はないようです」
「亜人連合との戦いは終わったってことか?」
「停戦といったところでしょうか。少なくとも今のところ、双方ともに争う意思はないようです」
「そうか。よかった、と言うべきかな」
人間と亜人の戦争は終わった。
亜人が差別、迫害されていることに関しては、エストを倒してスキルを消滅させれば変化が起こるだろう。
「ありがとな。シーラ」
「もったいなきお言葉です」
さて。
サラの様子はどうかな。
「シーラさん……!」
案の定、めちゃめちゃびっくりしていた。
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