第324話 究極の選択やないか

 学園に帰還した俺達は、サラの養生のため俺の部屋に集まっていた。

 ベッドに横たえたサラを、傍に座ったフィードリットが看ている。


「ふむ」


 真剣な様子でサラの身体を検めているが、どうなのだろうか。

 俺の力でサラを治そうかとも思ったが、状態が分からない以上下手なことはできないので、こうして検査してもらっているのだ。


「魔力の通りは正常だな。肉体にも異常はない。だが体力は消耗しているようだ。睡眠をとって回復すれば、じきに目を覚ますだろう」


「ほんとか? よかった」


「魔力に長けたエルフのワタシが言うのだ。間違うことなどあろうものか」


「そう自信満々だと逆に不安になるわね……」


 エレノアが俺の気持ちを代弁してくれるが、まぁ今はフィードリットを信用するしかあるまい。

 フィードリットは立ち上がり、部屋を出ていく。


「ワタシはやることがあるのでな。何か異常があれば念話灯で呼べ」


「どこにいくんだ?」


「図書館だ」


 学内にある王立図書館のことだろう。読書好きなようには見えないが。


「アディに頼まれてな。調べ物だ」


 そう言った後、急に笑いを漏らすフィードリット。


「つくづく、愛されているな。婿殿は」


 そんな捨て台詞を吐いて、フィードリットは部屋を後にする。

 静かになった部屋は、なんだか変な空気になってしまった。


「なに? どういうこと?」


 エレノアがじとっとした目を向けてくるが、俺はそんなことじゃひるまない。


「先生が、ウィッキーとルーチェと一緒に研究室に閉じこもってる。俺の為に色々やってくれてるらしい」


「色々って、何の研究よ?」


「俺にもわからん」


「なにそれ」


 エレノアは椅子の上で脚を組み、頬杖をつく。


「こんな時に急に研究始めるって、どういうこと? それにロートスの為って。なにかあったの?」


 その瞳が深刻な色を帯びる。

 エレノアは賢いからな。よほどのことがあるのだと、なんとなく察しているようだ。

 どうしたものか。


 エストを消せば俺のことを忘れてしまう。その事実を伝えるべきか否か。

 今このことを知っているのは先生とルーチェ。おそらくウィッキーも伝え聞いているだろう。


 悩みどころだな。

 ここでエレノアに言わないのは、不誠実にあたるか。

 だが、なんでもかんでも言えばいいというものでもない。エレノアに要らぬ気苦労をかけるのも悪い気がする。

 壁にもたれて腕を組む俺を、エレノアはじっと見つめてくる。


「言えないようなこと?」


「言いふらすようなことじゃないのは確かだな」


「でも、先生は知ってるのよね?」


 エレノアは椅子から立つと、早足で俺の眼前までやってきた。


「あの人が知ってて私が知らない。それってなんだか、癪だわ」


 俺の顔のすぐ横に手をつき、息がかかるほどまで迫るエレノア。


「背、伸びたわね」


 アインアッカ村を旅立った時には、エレノアは俺よりも身長があった。だが、この数か月で俺が追い越してしまったらしい。身体測定なんてしてないから、今の今まで気が付かなかったが。


「ねぇロートス。私とアデライト先生。どっちが好きなの?」


 心臓を殴られたのかと思うほど、鼓動が大きく高鳴った。


「いや、その」


 我ながらたじたじだぞこれは。

 まさかこんなことになるとは思ってなかった。

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