第321話 決着の訪れ
こういうのはあまりよくないのかもしれないが、死ぬことにも慣れてきたような気がする。
死に対する忌避感の麻痺。死んでもいいや、という気持ちになっている。
反省するべきだ。
俺の肉体は復活する。
少女の両腕を掴み上げた状態で、だ。
「つかまえた」
のっぺらぼうなものだから、驚いているのかどうかはわからない。だが、少女の動きは確実に止まっていた。
「ちょっと痛いかもしれないけど、まぁ我慢しろ」
言いつつ、少女のつるつるの顔面に膝を叩きこんだ。
ここぞとばかりにクソスキル『膝小僧の守護神』を発動する。これがまだ残っていてよかった。強化された膝が、少女の脳を激しく揺らし、一撃で気を失わせることに成功した。
「いっちょあがりだな」
前進し、歯車のすぐ前に到達する。
「手駒はもう尽きたのか? 観念したらどうだ」
返事はない。
マシなんとか五世の一部は、俺が放ったビームを流れ弾として喰らい、綺麗に消滅していた。これで死んだなんてことはないと思うが。
(母なるファルトゥールの御業……なぜキミがそれを操れる?)
「はぁ?」
(御子とはいえ、ただの人間に過ぎないキミに、どうして真なる神の力が備わっているんだ)
「知らねぇよ」
見よう見まねで撃っただけのビームだ。そんなややこしいことは考えてない。
つーかビームならリリスも使ってたし。
「強いて言うなら、俺は神を超越してるんだよ。お前が言うようなメタファー的な意味じゃなく、言葉通り神を超えたってことな」
エストだけに留まらず、ファルトゥールも超えているかもしれないな。だからビームが撃てた。そう考えると自然だ。
(そんな……僕は……僕が間違っていたとでもいうのか……)
なにやらショックを受けているようだ。
俺は背後から殺気を感じ、一歩横に移動する。その瞬間、すぐ傍を少女が通り過ぎていった。
「もう意識を取り戻したのか? すごい回復力だな」
少女は床を蹴って反転し、再び神速の勢いで迫ってくる。
「悪いけど――」
肉薄した少女の額を優しく払う。それだけで、少女は宙を舞って自ずから壁に激突した。
「――遅ぇわ」
さっき一回死んだことで、俺の力はさらに解放されている。さっきの俺と今の俺とでは、天と地ほどの差があるってことだ。
(キミは……一体なんなんだ。アルバレス因子を持たない失敗作じゃなかったのか)
「ああ。それか」
そういえばそんな話だったな。
「お前もかわいそうな奴だな。ファルトゥールやらエンディオーネやら。神に運命を弄ばれてよ。そこだけは同情するぜ。仲間意識すら覚える」
マジな話。出会い方が違えば親友になってた可能性もある。
「けど、この期に及んじゃ仕方ねぇ」
俺は拳を握りしめる。
「壊れてもらうぜ。マシなんとか五世」
光に包まれた拳。それを、歯車の集合体にぶち込んだ。
収束したエネルギーが、運命に干渉し、すべての事象を書き換えていく。
光が、大伽藍を満たしていく。
(そうか……そういうことだったのか……アルバレス因子……『妙なる祈り』……久遠の法……因果律の極致)
歯車が止まり、急速に錆びついていく。
シャフトが崩れ、いくつもの歯車が落下し、床を破壊しながら転がり、朽ち果てていく。
(やっと理解できた……ロートス・アルバレス……キミが……キミこそが……)
そのつぶやきを最期に、マシなんとか五世はこの世から完全に消滅した。
それは紛れもなく、完全なる勝利だった。
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