第299話 エストの化身

 全身を光り輝かせた石像。無表情だった顔が、怒りの形相に変わっていく。

 あたかも、仁王像のような顔だった。


「この光……紛うことなき神の威光じゃ。ピストーレの坊やめ。よもやここまで完成させておったとはな」


 アカネがなにやらブツブツ言っている。


「どういうことだよ。神の威光ってなん――」


 俺の質問を遮って、石像がパンチを繰り出す。


「避けるのじゃロートス!」


 言われた通り、俺は全力で跳躍する。

 間一髪で避けるも、強烈な風圧に煽られ、屋上の端まで吹き飛ばされた。

 あぶねぇ。当たっていれば確実に死んでいた。いや、死ぬこと自体は生き返るからいいが、塔から落とされたら戻っては来れない。今この時に限っては、それは死ぬことよりもデメリットがある。


「ロートス! 無事か!」


 上から声。

 のじゃ美女モードになったアカネが石像の頭よりもさらに高い位置で、その白い美脚を露わにしていた。


「おりゃっ!」


 放った蹴りが、石像のこめかみを破壊する。頭の一部が砕け散るが、ほんの少しだけだった。捨てられた神殿で戦った時のようにはいかない。


「かったいのう……!」


 石像を覆う光のせいだ。あの光が、攻撃力と防御力を格段に上昇させているんだ。

 アカネが俺の隣に着地する。


「なんなんだよ。あの光は?」


「神の威光。エストの光じゃ」


「エストの?」


「ピストーレの坊やめ。とことんエストを利用するつもりじゃの。エストの力を兵器にまで転用するとは、いよいよなりふり構っておられんようじゃの」


「モンスターをエストの力で強化してるってことか?」


「あれはモンスターではない。れっきとした神。言うなればエストの化身なのじゃ」


 エストの化身だって?


「おかしいとは思わんかったか? 新入生のクラス分け試験にあんなデカブツが現れるなど」


「そりゃ、まぁ……」


 その前に出てきたのがアイリスだったから、あんまり気にはならなかった。ボスモンスターっていうのはあんなもんかと思っていた。

 だけど確かに、放浪の洞窟の難易度に比べておかしなくらい格が違った。


「誰かがダンジョンに細工をしたってのか。どうせ機関だろうけど」


「いや違う。おぬしのせいじゃ」


「俺?」


 濡れ衣だろうそれは。


「おぬしの中に眠っていたアルバレス因子の欠片。操られた運命。そういったものがあのデカブツを呼び寄せたんじゃ」


「エストの化身をか?」


「エストには自己保存の力があることは知っておるか」


 そういえば、そんなことを聞いた気がする。マホさんが言ってたんだっけ。


「あやつは、おぬしがいずれ自身の脅威になると感じ取っておったのじゃ。だから、おぬしを消そうとして、あのダンジョンに現れた。もともと捨てられた神殿は神性の強い場所。それ故、化身が顕現することができたのじゃろう」


「じゃあ、この塔も」


「そういうことじゃ。まぁ、ここに関してはピストーレの坊やの差し金があってこそじゃがな」


 なんてこった。

 俺はクラス分け試験の時に、エストと一度対峙してたってことかよ。

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