第279話 アルバレス因子
「プロジェクトは失敗したんだ」
見かねたフェザールが、先生の後を継いだ。
「失敗?」
「ああ。だから、コッホ城塞での研究は破棄された。その後、諦めきれない有志達によってアインアッカ村での研究が続けられたというわけだ」
ふむ。そういうことだったか。
「なぜ失敗だったか。それは、エストの加護から脱した者だけが宿すといわれるアルバレス因子を確認できなかったかららしい」
「アルバレス因子? なんだそりゃ。遺伝子みたいなやつか?」
「それが一体どんなものかは俺にもわからない。研究資料にも確かなことは記されていなかった」
「俺もエレノアも、そのアルバレス因子ってやつを持っていなかった」
「そういうことだ。それが研究が破棄された最たる理由だったんだ」
最強の人間を生み出すのは失敗ってわけか。
相変わらず勝手な連中だ。ふざけやがって。
けれども、エストの呪縛から人類を解放するっていう理念には同意せざるをえない。手段はともかくとしてな。
「プロジェクトが破棄された後、マシーネン・ピストーレ五世は以前から進めていた神族の研究に没頭し、彼らの権能を取り入れ、『ホイール・オブ・フォーチュン』を更に進化させ、ついに完成させた。運命に抗う力。運命を変える力。それこそ機関が目指した終着点だったんだ」
たしか、アカネが言っていたな。
マシなんとかの能力はスキルとは似て非なるものだって。つまりそれは神族の権能に近いってことなのか。
「ん? 待てよ。神族といえば、スキルを持ってないよな。それってつまり、エストの呪いを受けてないってことなんじゃ」
「それは違います」
先生の否定が入った。
「神族はエストを生み出した種族。彼らこそ、最もエストの呪縛に魅入られているといってもいいでしょう」
確かに。エンディオーネに殺された白髭なんかまさにそんな感じだったもんな。
「それにスキルを持たないということはエストの影響を受けていないことと同義ではありません。あらゆる亜人にアルバレス因子がないことが、それを証明しています」
なんてこった。
頭がこんがらがってきた。
「一旦まとめさせてくれ。えっと」
俺は首をひねる。
「エストから人類を解放するためにプロジェクト・アルバレスが始動した。その為に異世界からエレノアを連れてきて、ついでになんか俺も連れてこられた。でも機関の思惑は失敗して、結局マシなんとか五世が自力で神を超越した……?」
「だいたいそれで合っている」
フェザールが肯定した。
なんだよそれ。俺とエレノアは召喚され損ってわけかよ。
「ねぇ待って。それっておかしくないかしら?」
そこでエレノアが指摘を差し込んだ。
「なにがだ、お嬢ちゃん」
「だってスキルは機関がエストを利用して生み出したんでしょ? エストの呪いを助長している気がするんだけど」
「一理あるな。だが、本質はスキルの有無じゃない」
どういうことだ。
「スキル以前にそもそも能力至上主義という常識が生まれた。そしてその前にも、なにかしらの社会通念にエストのはたらきが組み込まれ、人々の運命を縛り付けていた」
「じゃあ、どうして機関はスキルなんてものを生もうと思ったの?」
「一つは、その方が世界を動かしやすいから。もう一つは、エストの力を利用してエストからの脱却を図ったということなのさ」
なるほど。
敵の力を利用するのは戦いの常套手段だからな。合気道みたいなもんだな。
けど、結局スキルを利用した計画は失敗した。その代償にスキル至上主義みたいな低俗な概念が定着しちまったわけだ。くそだな。
あれ?
ちょっと待てよ。
「俺はエストを消滅させようとしてた。それって、プロジェクト・アルバレスの一環じゃなかったってことか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます