第273話 内外ともに停滞気味

「アイリス。すぐに元の姿に戻るんだ」


 ほとんど阿吽の呼吸で、アイリスは人型に変化する。

 スキルと魔法の無効化。さっきは広範囲にわたって発動したために仲間たちまで影響を受けたが、うまくコントロールすれば対象を選ぶこともできる。


 この場所でモンスターの姿を見られたらいろいろと面倒くさい。そういう意味で、ウィッキーのはだけたフードも被せてやる。亜人だとバレないようにな。

 というか、スライムの状態がアイリスの元の姿なんだったっけ。俺の中ではもう人間の姿がデフォルトになっている。


 俺は周囲を見渡す。

 ここは王城内だ。親コルト派の連中はまだ来ていない。


「えっと、何が起こったの? これ」


 エレノアは目まぐるしく変わる状況に頭が追い付いていないようだ。


「安全に降りられる場所がここしか思い浮かばなかったんだ」


「でも王城の中っすよ? 不法侵入になるんじゃないっすか?」


「戦場のど真ん中よりはマシだろ」


 周囲には飛行手段を失って落下してきた連中も数人いた。気絶しているがまだ息がある。俺はそいつらにファーストエイドをかけて回る。誰が敵で誰が味方か判別はつかないが、とりあえず助けとけばいいだろう。


「そんで、これからどうすんだ」


 魔法をかけて回る俺についてくるマホさん。

 シーラもついてくる。俺のファーストエイドが気になるようだ。


「先生とフィードリットを探します。その為に来たんですから」


 さらに言えばセレンのことも気にかかる。あいつも王都にいるはずだから。


「お城に入ったのに誰も来ないっすね」


「戦いでそれどころじゃないんだと思う」


「うーん。それだけ余裕がないってことっすね」


 一通り医療魔法をかけ終えた俺は、ウィッキーとルーチェの会話に割り込んだ。


「ウィッキー。先生と連絡を取って、今どこにいるか聞いてくれ」


「りょーかいっす」


 懐から念話灯を取り出すウィッキー。俺はその隣に視線を移す。


「ルーチェ。先生たちを助けたら、どこに行けばいいと思う? 俺は学園に行こうと考えてるんだが」


「学園に逃げ込むってこと?」


 うーんと唸り、ルーチェは腕を組む。


「親コルト派に治外法権が通用するとは思えないけど」


「それはわかってるんだ。けど、同級生のことが気になってな」


「同級生?」


「ああ」


 セレンのことだ。あとは、おまけ程度にヒーモも当てはめてやってもいい。

 どうしても気になっちまう。


「うん。わかった。じゃあ、私に任せて」


 ルーチェは自信ありげな笑みで胸に手を当てる。


「アイリスと一緒に学園に行ってみる。どんな人?」


「セレン・オーリスっていう女の子だ。髪色は翡翠で、小柄で無表情な子だよ。従者を連れていないからわかりやすいと思う。それに、アイリスが顔を知ってる。エルフの森に行った時、一緒だった子だ」


「はい。憶えておりますわ」


「それなら十分だね。今から学園に行ってみる」


「ああ。頼むぞ。恩に着る」


 この二人に任せておけば安心だろう。


「アイリス、行こう!」


「はい。メイド長」


 ルーチェは軽く地を蹴り、ふわりと飛んで学園の方向へ飛んでいく。アイリスもそれに倣い、強かな跳躍でルーチェの後を追った。


「ロートス。先輩の位置がわかったっす」


 その間に、ウィッキーが通話を終えたようだった。


「どこだ?」


「中央街の大通り。激戦区らしいっす……けど」


「けど」


「スキルと魔法が急に使えなくなったせいで、みんな混乱してるみたいっす。一時的に戦闘が止まってるところもあるらしくて」


「だろうな」


 ふむ。


「とにかく先生のところに向かおう。戦いが収まってるってんなら、好都合だろうし」


 これこそ、俺のチートの賜物だな。

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