第272話 チート
そうと決まれば話は早い。
凄まじい速度で王都を目指した俺達は、まもなくして高い城壁を捉えた。
「王都、見えたっす!」
ウィッキーが叫ぶ。
城壁周辺には多くの屍が転がっている。空から見下ろしてもわかるほどだ。
だが、戦いの行方まではわからない。
「状況はどうなってる?」
「戦闘は街の中で行われているようです。親コルト派が目指すのは王城でしょう。狙いは王族と有力貴族。そこを押さえれば、国は盗ったも同然です」
シーラが冷静にものを言う。
「なら、先生達も城を守ってるってわけか」
「おそらくは」
「よし。そのまま城の上まで行けると思うか?」
王都上空で空戦を繰り広げる連中を見据える。
竜や怪鳥、それに乗る騎士、あるいはスキルや魔法で飛行する者達が、制空権を奪い合っている。
「行くだけなら行けそうだけど……」
エレノアが俺の袖を掴む。
「エンペラードラゴンの巨体じゃ、いい的だ。アタシらを乗っけてんだ。すぐに撃ち落されちまうぜ」
たしかにマホさんの言う通りだ。
だけど、一瞬でもあの場所に辿り着ければ問題はない。
王城は王都の中心にある。それが重要なんだ。
「アイリス」
俺の呼びかけに、アイリスが分厚い鳴き声で応える。
「よし。みんな、詳しく説明している時間はない。空中に放り出されたら、アイリスの上に着地するんだ」
「え? どういうことっ――」
ルーチェが言い終える前に、アイリスが急加速を行う。
俺達は瞬きする間もなく、王城上空に到達。
空戦を展開していた連中が一斉にこちらを意識する。
いきなり現れたエンペラードラゴンに、誰もが驚愕しているようだった。
隙はこの一瞬しかない。
「いくぜ」
悪いけど、チートを使わせてもらう。
今の俺にできる最大出力だ。
俺の体から、球形の波動がほとばしる。それは王城を呑み込み、それだけではなく王都全体にまで及んだ。
その瞬間、王都で使用されていた全てのスキル、魔法が使用不可となる。
スキルや魔法によって飛行していた者は地上へ落下していく。
そして、『千変』によって変化していたアイリスもまた、ドラゴンからスライムの姿に戻ってしまう。それはつまり、飛ぶことができなくなり、落ちるということだ。
エレノアとウィッキーの叫び声がこだまする。
シーラ達守護隊とマホさんは冷静だ。
ルーチェは持ち前の権能で浮遊し、落下する俺達についてきていた。
事前に言っておいてよかった。慌てながらも、みんなアイリスの上に落ちる。スライムならではの弾力が、墜落の衝撃を緩和してくれる。
このあいだ撃ち落された時とは違う。
全員が揃って無傷で、王城の庭園に辿りつくことができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます