第271話 王都がやばい
神族会議を終え、現実世界に戻る。
深刻な顔つきのマホさんとルーチェを、ウィッキーとシーラが怪訝そうに見ていた。
「主様。何か分かったことがおありですか?」
「ああ。この世界の真実ってやつにはもううんざりだったが、どうやらそうも言ってられないらしい」
俺は後頭部を掻きながら溜息を吐く。
やれやれ、ってか? そういうタイプじゃないぜ俺は。
「ウィッキー」
「ほいっす」
「念話灯で先生に繋げるか? 今から話すことを、先生とも共有しておきたい」
「かけてみるっすね」
懐から念話灯を取り出したウィッキー。発信して一秒も経たぬうちに通話は繋がった。
直後、聞こえてきたのは爆発音だ。ウィッキーが驚いて念話灯を耳から離す。
俺達は顔を見合わせた。
「先生?」
『すみません。今ちょっと取り込んでまして』
先生の声。その裏ではなにやら物騒な音声が鳴り響いている。
大きな爆発。鋭い破裂。激しい金属音。男達の叫び声。間違いなく戦闘の最中だった。
『おいアディ。こんな時に念話灯など出して、何を考えている』
フィードリットの声だ。一緒にいるのか。
「先生! 戦ってるんですか!」
『ロートスさん。よく聞いてください。現在、王都では親コルト派を名乗る軍が王国政府に対し反乱を起こしています。今こちらに来るのは危険ですから、しばらくは王都から離れた場所で待機してください』
王都で戦闘が起こっている。予想できていたことだけど、まさか先生が巻き込まれているなんて。
「先生はどうするんです。大丈夫なんですか。どうして戦ってるんです」
おのずと俺の語気も強くなる。
『魔法学園の教師も、王都防衛に駆り出されたのです。ですが心配はご無用。こちらはなんとかしてみせます』
「なんとかって……」
先生の言うことだから鵜呑みにしたいけども、心配はするなというのは無理な話だ。
『なんだ。婿殿だったか』
「フィードリット」
『安心しろ。アディにはワタシがついている。冒険者も総出で王都を守っているのだ。状況はこちら側が優勢だぞ』
そりゃこうして通話する余裕があるくらいには大丈夫なんだろうけど。
いや、迷っている場合じゃないな。
俺の選択は決まっている。
「アイリス」
「御意、ですわ」
多くを語らずとも通じる。これが理想の主従関係だ。
アイリスはスキップするような軽やかな足取りで外に出ると、エンペラードラゴンへと姿を変えた。
「みんな。俺に付き合ってくれるか」
ウィッキー。
ルーチェ。
シーラ達守護隊。
彼女達から異論は出ない。
だけど、エレノアとマホさんはどうだろうか。
俺は視線で意思を問う。
「ロートス。わたし……」
エレノアの目には力がなかった。それも仕方ない。この数日間、いろいろなことがありすぎた。精神がすり減っているだろう。俺はもう慣れっこだけど、エレノアはそうじゃない。これ以上無理はできそうにないか。
「ねぇロートス」
「ん」
「どうして……どうしてあなたは、そんなに強いの? 迷いもなく自分の道を進んでいけるのは、どうしてなの?」
「簡単だ」
俺もいろいろ考えた時もあったし、迷って悩んで立ち止まりそうなときもあった。ついこの間の話な。
でも、今は違う。
「何の為に生きるかを、決めたからだよ」
「何の為に、生きるかを……?」
「大切な人達を守る。大切な人達の世界を守る。それが俺の生きる意味。使命ってやつだ。決まりきった運命じゃなく、俺自身がそう生きるって決めた。決めたからには、意地でもその道を外れたくないんだよ」
俺の目をじっと見つめるエレノア。
何を考えているかはわからない。だけど、その瞳に力が戻っていくことはわかる。
「ひとつだけ、聞いてもいい?」
エレノアがワンピースの裾をぎゅっと掴んで、俯く。
「あなたの言う大切な人達に……私は、入ってる?」
「当然だろ。お前が入ってなきゃ、誰が入ってるってんだ」
俺はエレノアの手を握る。
「うん……ありがとう」
震える声で答えるエレノア。
その顔を上げた時、もはや迷いの表情はなかった。
「私も行く。あなたの大切な人達を、私も一緒に守りたい」
俺は強く頷く。
「行こう」
「うん!」
俺はエレノアの手を引き、アイリスへと飛び乗る。
その後に、すぐマホさんが続いた。
「エレノア。今のお前、最高にいい女だぜ」
「そ、そうかしら?」
俺もそう思う。
「みんな! 行くぞ!」
俺のかけ声で、仲間たちは一斉にアイリスに乗り込む。
さぁ。
とりあえず、王都を救いに行きますか。ササっとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます