第269話 神族会議、再び

 神族会議。


 集合意識の精神世界とやらに行けたのは、俺とルーチェとマホさんの三人だけだ。

 いつもの宇宙じみた空間に、魔法陣が浮かんでいる。

 俺達の分を合わせて、五つ。他の二つは魔法陣だけで、そこに人はいない。


「そんな……!」


「二つだけだと……? マジかよ」


 ルーチェは口を押え、マホさんは眉をひそめる。


「えっと、どういうことなんだ? 二つだけって」


「前に来た時は、魔法陣はもっとあっただろ」


 たしかに十個以上あったな。


「それが消えてるってこたぁ……つまり」


「死んだってことですか」


 マホさんは頷く。

 それじゃあ神族の生き残りは、ルーチェとマホさんを除いて二人だけってことになる。

 そうなると、そのどちらかが裏切り者ってことなのか。


 考えていると、魔法陣の一つに人影が現れた。

 白髭の老人だった。


「マホくんと、ソルヴェルーチェか。ほっほ……なんとも、大変なことになったのう」


 陽気な声も、今ばかりは鳴りを潜めている。


「神族はほぼ全滅。これではエストを消すことはおろか、神族の存続も危ぶまれる」


 ほんと、大変なことになった。

 俺は空いた魔法陣を見る。


「もう一人は誰なんだ。もしかして」


「想像しとる通りじゃろうて」


「エンディオーネ……」


 俺の呟きに反応したしたわけではないだろうが、最後の魔法陣の上に死神幼女が姿を現した。


「エンディオーネちゃん、とーうじょーっ」


 大鎌を振りかざし、無邪気そうな声を飛ばしている。


「今回は遅刻じゃないよね? ちゃんと間に合ったよね?」


 間に合うも何も突発的な開催だったからな。基準が分からん。


「さて、これで全員揃ったわけだが」


 口を開いたのはマホさんだ。


「率直に言わせてもらうぜ。あんたら二人のうち、親コルト派にアタシらを売った裏切り者はどっちだ」


 ほんとに率直だな。単刀直入とはまさにこのことだ。

 ルーチェは胸に手を当てて不安そうに見守っている。


「穏やかではないのうマホくん。どうしてそのように考える?」


「簡単だ。タイミングがよすぎんだよ。今回の襲撃は、十中八九エストを消されたくない奴の仕業だろうな」


「なるほど! じゃああたしじゃないねー。あたしはエスト絶対殺す勢だからねー」


「ほっほ。ならばわしが裏切り者ということかね? そりゃあ見過ごせない説じゃの」


 ううむ。

 どちらかが裏切り者なのか。いや、どっちもが裏切り者ってことも考えられる。あるいは、本当は裏切り者なんていないのか。


「はいはーい。ロートスくん悩んでるねー。ふんじゃあエンディオーネちゃんが、わかりやすく説明してあげましょーっ」


 大きく手を挙げるエンディオーネの脇をガン見しつつ、俺は首を傾げた。


「説明?」


「白髭のおじいさんがどうして裏切ったかの説明だよー」


 なんだって。


「ほっほ。それは面白そうじゃの。ぜひ聞かせてくれんか」


 陽気に笑う白髭。なんか余裕そうだ。


「はーい! じゃあ言いまーす! えっとねー、まず」


 鎌を抱えてしなをつくるエンディオーネ。


「おじいさんが親コルト派に情報を流しているのは、最高神エストを存続させて、女神ファルトゥールの復活を阻止するためなんだー」


 その瞬間、白髭の顔が凍り付いた。

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