第260話 やるしかないんじゃ

「どうしてあんたが……」


「某は任務中でしてな。のんきに立ち話をしている暇はありませぬ。さぁ、その女をこちらに」


 おい。マジでどういうことだ。


 だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 俺はマホさんの傷口に触れ、医療魔法を行使する。


「無駄なことはおやめなされ。その傷は特殊な武器でつけられたもの。医療魔法では治りませぬ」


 エルゲンバッハが言っている最中。マホさんの傷はみるみるうちに塞がっていく。数秒後には傷跡もなく、綺麗な白い肌へと戻っていた。


「……これは驚きましたな。ロートス殿。よもや貴殿がそのような力をお持ちだったとは」


 場はにわかに騒然となった。

 エルゲンバッハ含め、周囲の兵士達も驚いている。その驚きようはすさまじく、まるで神の姿でも目の当たりにしたかのような困惑ぶりだった。


「マホさんっ。だいじょうぶなの?」


 エレノアの問いに、マホさんはなんとか頷く。傷は塞がったんだ。応急処置としては上々だろう。あとは、マホさんの生命力に委ねるしかない。


 マホさんを心配するエレノアに代わり、俺がエルゲンバッハの前に立つ。


「これはお前らの仕業か」


「いかにも」


「この人はエレノアの従者だぞ。いったい何のつもりだ!」


 思わず声を荒げてしまう。

 マホさんは、俺の幼馴染でもある。幼い時によくしてもらったお姉さんだ。

 彼女がこんな目に遭わされて、冷静でいられるかってんだ。


「落ち着きなされロートス殿。その女は、ヘッケラー機関の工作員であり、帝国の間者であるとの容疑がかけられておるのです」


「なんですって。そんなのあるわけないじゃない!」


 エレノアの反論。

 そうだ。確かにそれは誤解だ。マホさんが機関にいるのには理由がある。


「それだけではありませんぞ。その女、裏で世界を操る神族会議という組織の一員でしてな。健全な社会の確立のためにも、野放しにはできぬのです」


 まじか。

 そこまで知っているのかよ。


「マホさんはずっと私と一緒にいたのよ! 私が生まれた時からずっと! そんなことできるわけないじゃない!」


「貴女の目が節穴だっただけですな。現にロートス殿の反応を見るに、どうやら全てご存じのようだ」


「え?」


 エレノアが俺を見る。


「ロートス……そうなの?」


 くそ。

 話をややこしくすんなよこのジジイ。


「俺が言える確かなことは」


 正体がどうとかじゃなくて。


「マホさんを傷つける奴は許さねぇってことだ」


 エルゲンバッハの眼光が鋭くなる。


「アイリス!」


「御意」


 打てば響く。その瞬間、アイリスが動いた。

 こうなっちゃ仕方ない。困った時のアイリス頼みだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る