第243話 心身ともに
「大変なことに、なったわね」
「自業自得、因果応報だな」
「なによそれ。他人事みたいに」
「この世界ではな。運命は行動によって決まるらしい。だったら、良いことも悪いことも自分の信条に沿った結果のはずだろ。だから、後悔してない」
「自己責任論っていうあれ?」
「違うな。未来は、自分自身で切り開いていけるってこった」
国が敵に回るというのならかまわない。
俺のやろうとしていることは、結果的にそうすることだからだ。
戦争を止めるため、ひいては家族と過ごす理想的なスローライフのために、俺はとまらねぇからよ。
「そんなことより」
テーブルに置かれた念話灯を見る。
「お前、イキールと仲良かったんだな。念話灯まで持ち合ってるのかよ」
エレノアの視線も念話灯に注がれる。
深刻そうだった顔が見る見るうちに崩れ、にやにやとした笑みでこちらに近づいてきた。
「え? なになに? もしかして妬いてるの?」
「ばっかちげぇよ」
「なによー。照れることないじゃない。うりうり」
脇腹に肘を押し付けられ、俺は身をよじる。
「やめろって……このっ」
なにがどういう風になったのかは俺にもさっぱりなのだが、エレノアを小突こうとしたところバランスを崩してしまい、そのまま彼女をベッドへと押し倒してしまった。
ふかふかだったおかげでケガも痛みもないが、エレノアの上に覆いかぶさってしまったことはまことに弁解のしようもない。厳然たる事実だった。
「あの……ロートス……?」
息が触れ合うほどに顔が近い。おでこから首までを真っ赤に染めたエレノアから、目を逸らせない。
「あ、ちょっと。待って待って。私達ほら、この世界ではまだ十三歳だし。精神的には結構大人かもしれないけど、肉体がついてきてなくて……体は子ども、頭脳は大人みたいな……ねぇ?」
テンパっているのが丸わかりだ。もはやエレノアも自分が何を言っているのかわかっていないだろう。
言葉は多けれど、抵抗らしい抵抗はない。
「あのね……ロートス」
「うるせぇ」
この期に及んでまだ何か喋ろうとするエレノアの口を、俺は自分の口をもって塞いでやった。
熱を帯びた唇が重なる。その柔らかさを確かめるように押し付けていると、エレノアのなめらかな舌が俺の唇を割って口内に侵入してきた。
こいつ……初心なふりしてやるじゃねぇか。俺も負けてはいられない。
舌を操り、お互いの口内を行き来する。エレノアの歯や舌、あごや頬の裏側までを堪能するように。情熱的というにはあまりにも乱暴な口づけだった。
どれくらい続いただろうか。
息が苦しくなって思わず唇を離すと、エレノアの潤んだ瞳がこちらを見上げていた。
「ねぇ……するの?」
胸の中に隠し、しまい込み、いつか諦めた恋心。
押さえつけていた激情が、欲望となって押し寄せてくる。
こうなってしまったら、我慢のしようもない。
「いいよ。ロートス」
恥じらいと喜びを湛えた微笑み。
正直、もう何も考えられなかった。
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