第228話 想定以上の規模
人間、亜人を問わず、一見して数百の戦死者が村の道に野ざらしになっていた。
直前まで激しい戦闘が行われていたことは想像に難くない。
「くそ……っ」
カード村での戦いとは規模が違う。数百人の死者が出るって、相当にでかい戦いだぞ。
「マスター。隠れましょう」
アイリスが俺の手を引いて建物の陰に隠れ、ある一方を指差した。
「あれを」
そこにいたのは、亜人連合の軍人だ。二人の男が、こちらに向かって歩いてくることろだった。
何かを喋っているようだ。俺は耳を澄ませる。
「いやあ、しかし。まさか敵を逃がしちまうとはな。あの神父の言うことには、殲滅できるって話だったのによ」
「やっぱ人間の言うことなんか信用しちゃダメだということだよ。オレ達に協力してくれるのも、なにか裏があってのことなんじゃないのかな」
「やっぱりお前もそう思うか。おかしいと思ったんだよな。敵軍のちっこい女いたの、憶えているか?」
「ああ。あのバケモノか。どでかい魔法を撃ちまくってたメスガキだよね?」
間違くなくエレノアの事だろうな。メスガキって言うな。
「小耳にはさんだんだけどよ。あいつ、この村の生まれらしいぜ」
「なにぃ? 怪しいねそりゃ」
「ああ。下手すりゃ全部、仕込みだった可能性があるぜ」
「もしそうだったなら、たまんないね」
そんなことを喋りながら、男達は俺達に気付かず通り過ぎていった。
俺は止めていた息を吐く。
「逃げたって言ってたな」
どうやらガウマン侯爵の軍は、アインアッカ村で戦闘をした後、どこかへ撤退したようだ。カード村に来ていないことを見ると、逆方向だな。王都の方角だ。
となると、撤退して拠点にできそうな場所と言えば。
「リッバンループか」
俺がサラを買った街だ。あそこはこのあたりじゃ一番大きな街だし、物資も豊富にあるだろう。
「アイリス。お前、念話灯持ってるか?」
「はい。私もアデライト先生からお借りしておりますわ」
「貸してくれ」
アイリスはワンピースのスカートの中から念話灯を取り出す。なんてとこにしまってんだ。いいけどさ。
「どうぞ」
俺はすぐさまルーチェに発信する。
振動する念話灯。
頼む、出てくれ。
『もしもし? ロートスくん?』
よかった。
「おう」
『よかったぁ……大丈夫なの?』
「なんとかな。そっちはどうだ」
『うん。こっちも問題ないかな。今、リッバンループまで来たところ』
いいね。ちょうどいいタイミングだったわけだ。
「リッバンループで、なにか変わったことは起きてないか? 例えば、軍が現れたとか」
束の間、沈黙が訪れる。
『すごいねロートスくん。なんでわかったの?』
この反応から察するに、あたりだな。
『王国中の将軍とか、有力な冒険者が、この街に集結してるみたいなの』
「え?」
王国中の? そこまで大規模なのか。それは予想外だ。
『街は厳戒態勢だよ。防衛陣地も建設されてるし』
王国はやる気だな。
リッバンループを砦として、亜人連合を叩き潰す気なんだろう。
「わかった。俺もすぐにそっちに向かうつもりだ」
『うん。じゃあ、待ってるね』
「いや、ルーチェ達は先に王都に向かってくれ。できるだけ早くサラを学園に送り届けるのが最優先だ」
『えっと……でも』
「こっちにはアイリスがいるから大丈夫だ。それに、俺がいるとお前らの足手まといになりかねない。少しでも人数が少ない方が動きやすくもあるだろう」
しばらく考えるような沈黙を挟み、ルーチェが吐息を漏らした。
『うん。わかった。ロートスくんの言う通りにする』
「サンキュな。サラを頼むぞ」
そんなこんなで、通話は終了する。
「マスター。何かお考えが?」
「ああ。このままリッバンループへ一直線だ。将軍達が集まってるなら、好都合。あの人も来てるだろうしな」
この村にいる両親のことも気になるが、今は後回しにしよう。
戦争を止めるチャンスが、きているかもしれないんだからな。
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