第226話 もう決めたぜ
みんな同じだ。
自らの大義のために戦っている。
亜人達は、ただ切に自由と平等を求めているのだ。
だから戦う。
確かに戦争は褒められた行為ではない。だけども、自由を願う彼らの心に罪などあろうものか。
帝国の思惑がどこにあるのかはわからんが、スキル至上主義の廃絶が目的だとすれば、亜人連合とはウィンウィンの関係にある。
そうなれば、一概に帝国が悪だとも言い難い。
うーむ。
俺はいったい何を信じ、誰の味方をすればいいのか。
頭がこんがらがってきた。
「俺が思うに」
考えを整理しようと、俺はとにかく言葉を発した。
「確かなことが二つある」
「ほう? それはなんじゃ」
「ひとつは、戦争は絶対悪だということだ。どれだけ崇高な理念を持っていてようと、戦争を手段として使ってしまったら、一巻の終わりだよ」
「これ以上ない綺麗事じゃな」
「そうだな。けど、妥協の末に得た結果なんてのはどうせ満足のいくものじゃない。綺麗事を言葉で終わらせなきゃ、百点満点の現実が手に入るはずだぜ」
「夢物語にしか聞こえん。それができぬから、綺麗事だと言うんじゃ」
「そりゃおかしいな。自由のために命を賭けるのに、理想のためにはできないってのか?」
「おぬしのそれは理想とは言わん。空想と言うんじゃ」
「言葉遊びはいらねぇよ。要は、やるかやらないかだろ」
老人は黙ってしまう。
少なくともこの世界において、全ては行動で決まるんだ。運命を変えるのは、理屈や論理じゃなく行動だ。
「少年よ。おぬしは何が言いたいんじゃ」
「俺にもわかんねぇよ。でも、こうやって言葉にしてると、考えがまとまってくるんだ。自分からこれから何をするべきかってな」
「……おかしな奴じゃ」
空のグラスに水を注いでやると、老人はそれを一気に飲み干した。
「それで、もうひとつは何じゃ」
「ああ。それはな」
これだけは確信をもって言うことができる。
「ヘッケラー機関とマシなんとか五世は、マジでクソってことだ」
人々の価値観を操作し、スキルなんて厄介なものを生み出したばかりに、社会の歪みを生み出してしまった。
ヘッケラー機関が諸悪の根源と言っても過言ではないような気もする。
老人はぽかんとしている。
そりゃ分からないよな。
「よし」
俺はひとり得心する。
「回復したら逃げるといい。俺はここいらでお暇するわ」
「なんじゃと? わしを置いていくというのか」
「やることがあるんでな。あんたにも帰る場所があるだろう。戦争なんかやめて、家でゆっくりしてろよ」
俺はテントを出る。
「じゃあな」
正直なところ、老人を放っていくのはどうかとも思うが、俺もゆっくりはしていられない。大の大人なんだから、大丈夫だろう。
俺は決意を固める。
ガウマン侯爵のところに行くぞ。
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