第219話 学徒動員

「本当に、きちまったんだな……」


 姿勢よく佇むエレノアと、斜に構えてそっぽを向いているマホさん。

 この目で見るまでは信じられなかった。いや、信じたくなかった。


 俺は目頭を押さえる。

 来てしまったものは仕方ない。ここからどうするかが肝要だ。


 先程の伝令兵が、学園生たちの前で大きな声を出した。


「いいか。現在、この村に亜人の軍が近づいている。我々から村を奪還するつもりだろう。斥候によれば、その数は百を超えている」


 学園生たちがざわつく。当然だ。

 彼らが何を聞いてこの村に派遣されたかは知らないが、到着していきなり戦闘が始まるとは思ってもみなかっただろう。


「貴様ら学徒兵の最初の任務は、亜人共からこの村を守ることだ。それが主将であるガウマン侯爵からの命令である」


 ざわつきが更に大きさを増した。


「私達だけで、ですか?」


 上級生と思しき女子生徒が驚きながら質問した。


「その通りだ」


「そんな! 無茶です! 敵は百人なんでしょう? こちらは従者を含めても六十人ちょっとなんですよ」


 また別の男子生徒が抗議の声をあげる。


「百人いようとも奴らはスキルを持たぬ劣等種だ。貴様ら学園のエリートが何を恐れることがある」


 伝令は強い口調で断言していた。

 いやぁ。

 スキルを持たないと言っても、亜人だって馬鹿じゃない。それくらいは分かっているだろうし、スキルに代わる能力を手にしているに違いない。帝国の息がかかっているんだからな。


 学園生たちはなんやかんや文句を述べている。正規軍が対応するべきだの、皆で協力するべきだの。もっともな意見だと思うが。


「黙りたまえよ!」


 そんな時、鋭い剣のような一喝が響いた。


「軍事行動において、上官の命令は絶対。そんなことも理解していないのか。我々は学徒兵だが、正式な徴兵手続きを経てここに来ている。一人の軍人として、自覚ある振る舞いをするべきだ」


 聞き覚えのある声。

 典型的な貴族の風貌。あれは……イキールじゃねぇか。あいつも来ていたのか。見れば、奴の従者であるリッターとかいう騎士も一緒だ。


「将であるガウマン侯爵が、我々だけで勝てると判断したんだ。ならばその期待に応えるのが兵の務めだろう」


 イキールの主張もわかる。だが、学徒兵だけで戦わせる判断が正しいものとは思えない。

 いや、正しかろうと誤っていようと、上官の命令は絶対。そういうことなんだろう。

 もちろん、上級生から反論はある。


「キミはガウマン侯爵の息子だからそう言えるんだろう! オレたちはただの学生だ! 魔法を学びたくて学園に入学したんだ。戦争に駆り出されるなんて聞いていない!」


 そりゃそうだ。まさに今の彼らの正直な気持ちだろう。

 だが、イキールはにべもない。

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