第214話 いきはよいよい

 夜明け頃。


 戻ってきたシーラ達と合流することに成功した。


「主様。アルバレスの守護隊。ただいま戻りました」


 ローブの面々が俺の前に跪く。


「ああ。ご苦労だった。助かったよ」


「ありがたきお言葉です」


「ちゃんと全員いるな?」


 俺は十数人の守護隊を見渡す。


「はい。誰一人欠けておりません。しかし……負傷した者が」


「誰だ」


 おずおずを手を挙げたのは、一人の少女。

 ここに向かう時、アイリスの上で俺を支えてくれていた子の一人。忘れもしない。俺がおっぱいに顔を埋めていた子だ。

 見ればローブの一部が斬り裂かれ、左腕に巻かれた包帯が見え隠れしている。白い包帯には血が滲んでいて見るからに痛々しい。


「医療魔法を使えるやつはいなかったのか」


 俺はシーラに尋ねる。


「は。みな一通り修めておりますが、敵の使う戦闘魔法が特殊であり、医療魔法の効果が薄いのです」


 聞いたことがある。一部の戦闘魔法は、その後の傷の治りを著しく遅くすると。医療魔法を用いても、満足な効果を得られないらしい。


「見せてくれ」


「あ」


 俺は負傷した少女の腕を取る。

 まぁ、物は試しだろ。


 俺は包帯の上から医療魔法をかけてみた。ウィッキーとの特訓で習得した初級の医療魔法ファーストエイドだ。

 仄かな光が少女の傷を覆う。すると、包帯がひとりでに解け、傷一つない白い腕が露わになった。


「治っ……た?」


 少女が呟くと、守護隊のみんながにわかにざわついた。


「そんな……どうやって……」


 シーラも驚いているようだ。

 俺的には普通に医療魔法をかけてみただけだが、どうやら効果があったようだ。なによりだな。


「まぁ、俺の医療魔法にはエルフ達もびっくりしていたからな。医療魔法に限っては、エルフより優れていると言っても過言でないのかもな」


「あ、ありがとうございます!」


 少女が深々と頭を下げる。額を地につけんばかりの勢いだ。

 そこまで感謝されるとは。なんだかむず痒いな。


「気にすんな。ちょっとしたお礼ってやつだ」


 おっぱいのな。

 それはともかく。


「他にケガしてるやつはいないな? なら出発しよう。急いで王都まで戻るぞ」


「御意!」


 守護隊の声が重なった。


 さて。

 夜が明けたとはいえ、深い森の中をただ進むのは難しい。だから必然的に道を進むことになる。

 すなわち、カード村を通らなけりゃならないってことだ。

 あの後、村がどうなったかはわからない。行ってみるしかないのだ。


 カード村の近くまで来た俺達は、森の中に隠れつつ、様子を窺ってみる。


「どうだ? 何か見えるか?」


 こういう時は、目と耳がいいウィッキーに聞くに限る。


「……亜人の気配がないっす」


「なに?」


 まさか、殺されたってことはないよな? いや、大いにあり得る。戦争が始まったのだから。


「村は王国兵に占拠されてるっす。何事もなく通してくれる雰囲気じゃないっすね」


 まじかよ。

 正直、戦力的には負ける気がしない。だが、自分の国の兵士と戦うわけにもいかないだろう。そんなことをすれば帰るところがなくなってしまう。


「なにか、策はないのか?」


「まずは情報を集めないことには、なんとも言えないね」


 ルーチェがもっともなことを言った。


「アデライト先生にお伺いしてみるのはいかがでしょう?」


 アイリスの口から妙案が出たな。


「聞いてみるっす」


 念話灯を取り出すウィッキー。

 頼むぜ。

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