第212話 小休止
マジックアイテムって異世界とかファンタジーとかでは定番のやつだと思っていたけども、こうして目の当たりにするとやはり驚きである。
台座と一緒に出現したサラ入りクリスタルは、静かに仄かな光を湛えていた。
「サラ……」
ウィッキーが呟く。
実の妹がこんな姿になっているのはさぞ悲しいだろうな。俺も同じ気持ちだ。
クリスタルにそっと触れ、ウィッキーは生まれたままの姿のサラを見上げる。
「これは……」
「どうだウィッキー? サラを出してやれそうか?」
俺の問いに、ウィッキーは首を横に振った。
「どうしてだ? このクリスタルを割ればいいんじゃないのか? それとも、固すぎて割れないとか?」
「いや、クリスタルを破壊するのは可能っす。でも、それは最善じゃないっすよ」
どういうことだ。
「このクリスタルは、サラの持つドルイドの魔力が流出して結晶化したものっす」
さっぱりわからん。
「クリスタルの中にサラちゃんを閉じ込めたんじゃなくて、サラちゃんの中からあふれ出した魔力がクリスタルになったってことだよ」
ルーチェが補足してくれる。
なるほど。なんとなく理解した。
「それだとクリスタルを壊せないのか?」
「サラの魔力ごと破壊することになるっす。つまりそれは、ドルイドとしてのサラを殺すことにも繋がるんす」
「ドルイドとしての? サラが死ぬわけじゃないってことか?」
「すべての魔力を失うってことっすね」
うーむ。
それがどれほど重大なことかはわからない。俺の考えるところによると、魔力がなくなっても生きていればいいとは思う。あくまで俺個人の主観だがな。
「スキルのない亜人にとって、魔力の喪失は死にも等しい。それこそスキル至上主義の招いた悲劇だ」
幾分か落ち着いたマクマホンが、噛み締めるように言う。
俺はウィッキーを見る。
「ウチも、サラには魔力を失ってほしくはないっす。特に、ウチらマルデヒット族は魔力に秀でた種族。唯一の取り柄と言ってもいいっす。それがなくなれば、これからのサラの人生に小さくない影響を及ぼすはずっすから」
たしかにな。
ならば、どうすればいいのか。
『私に考えがあります』
ふと、アデライト先生の声が聞こえてきた。
「先生?」
「あ、これっすこれ」
ウィッキーが懐から念話灯を取り出した。
ああ、そういえばみんな持っていたんだったな。俺は失くしてしまったが。
『ご無事でなによりです。ロートスさん』
念話灯の向こうからは先生の安心したような声。
「すみません。撃ち落とされた時に念話灯を落としちまったみたいで。高価なものなのに」
『かまいません。ロートスさんの無事には代えられませんから』
ううむ。これは反省だな。
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