第211話 四次元ポケなんとか
それからどうした。
十数分の後、俺達はカード村からほど離れた小川のほとりに辿り着いていた。
馬車を下ろし、俺達を降ろすと、アイリスはドラゴンから人間の姿へと戻る。服も元通りになっているあたり、魔力的なサムシングが働いているのだろう。
それはともかく、馬車はえらく静かである。普通、こんなことになったら中の人間が騒いでもよさそうなものだが。
「誰も乗ってないってことはないよな」
「確かめてみるっすか」
ウィッキーが怖いもの知らずを体現したかのような勢いで馬車の扉を開く。
「おっと」
その瞬間、車内から放たれた攻撃魔法がウィッキーに直撃した。あれはたぶんフレイムボルトだろう。
ウィッキーは危なげなくバリアを張って防いでいた。
「見え見えの奇襲っすね。そんなのに当たるわけないっす」
ウィッキーすごい。
「くそっ」
馬車の窓から逃げ出そうとしているのは、やはりというべきかマクマホンだった。
「アイリス、捕まえろ」
「お任せあれですわ」
窓から転がり落ちたマクマホンは、あっけなくアイリスに捕縛されてしまう。
「はなせ! 小娘が!」
「やめとけ。無駄な抵抗だぞ。アイリスに捕まったら天地がひっくり返っても逃げられないぜ」
「なにを……! 帝国の外交官である私にこのような仕打ち……いくらロートス様とはいえゆるされることではない! 国際問題になりますぞ!」
「しらん」
なにやら喚いているマクマホンはとりあえず放っておこう。
「ウィッキー。中にサラはいるか」
「いや……なんもないっすね」
「なんだと?」
バカでかい馬車だから、てっきりあのクリスタルごと載っていると思っていたのに。
「おいマクマホンのおっさん。サラはどこだ」
俺の問いに、マクマホンの顔が引きつる。
「そんなもの――」
「答えなくていいわ」
声を遮ったのはルーチェだった。
「彼の首にかかったペンダントがあるでしょ。それ、取って」
ルーチェの指示に、アイリスが従う。マクマホンの首から毟り取ったペンダントを、アイリスはルーチェへと投げ渡した。
「どうぞ、メイド長」
「ありがとアイリス」
ペンダントを受け取ったルーチェは、それをじっくりと検めてから、俺の横まで来て見せくれた。
「これはね、マジックアイテムの一種だよ」
「マジックアイテムとな」
「帝国ではマジクアイテムの作成が盛んなの。魔法産業に関しては世界一の技術をもってる」
なるほど。それが帝国が大国である所以かもしれないな。
「そのペンダントは、何に使うんだ?」
「アイテムボックス。魔法で作り出した疑似空間に、物体を収納できるんだよ」
ああ。いわゆる四次元ポケなんとか的なやつか。それは便利すぎるな。
「すげぇな。マジックアイテムがありゃ、スキルいらずじゃねぇか」
「スキル至上主義を否定する帝国らしい技術っすね」
「たしかにな」
ウィッキーも興味津々なようだ。
「じゃあ、あれか。その中にサラが収納されてるってことなのか」
ルーチェは頷く。
これは腹が立つ。サラをアイテム扱いしやがるとか、やっぱりマクマホンの野郎はいけすかねぇぜ。
「早く出してやってくれ」
「まかせて」
ルーチェがペンダントの中心に指を置くと、そこから強めの光が漏れる。
そして、目の前に巨大なクリスタルがどこからともなく現れた。
サラが全裸で封じられている、あのクリスタルであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます