第200話 第1部完
「俺がこうして亜人同盟のところに向かっているのも、全部プロジェクトのシナリオ通りってことなのか」
サラが突然いなくなって、亜人同盟の盟主になって、俺が戦争を止めると決意したことも、全部最初から決まっていたことだとしたらどうだ。
運命に立ち向かっているつもりなだけで、実際それこそがヘッケラー機関によって定められた宿命なんだとしたら、俺はとんだ道化じゃないか。
こんなバカげたことってあるかよ。
俺がやろうとしていることや、今までやっていたことは、本当に俺自身の意志から生まれた行動なのだろうか。
確信が持てない。
気がつけば、足が止まっていた。
「ロートス?」
数歩先のフェザールが振り返る。
「どうした。疲れたのか」
「ああ。そうだな。少し……疲れた」
自分自身の信念が、揺らいでいるような気がした。
そんなもん、最初からあったのかって感じだけど。
フェザールはしばらく何も言わなかった。ただじっと俺を待っている。
「休憩にするか」
だしぬけにそんなことを言い出すと、フェザールは道の脇にある切り株に腰をおろす。
「ほら、座ったらいい」
そう言われてやっと、俺は近くの切り株に座ることにした。
「ロートス。キミがいま思い悩んでいることは、俺にとっては他人事だ。気にしなければならないこともないし、どうでもいいと斬り捨てたっていい」
そりゃそうだ。
「でもだからこそ、その悩みを客観的に見ることができるんだ。自分のことってのは、実際よりも大きな問題に思えるものだ。それこそ、世界で一番悩んでいるのは自分だって信じてしまうくらいにね」
そうかもしれない。
「キミには娘を救ってもらった恩があるから、あえて言わせてもらうよ。運命とか宿命とか、自分の背負っているものを自覚するのは大切だ。だけども、それに圧し潰されちゃいけない。そうなったら、マシーネン・ピストーレ五世の二の舞だ。諦念に満ち、狂気的な妄執に囚われてしまう」
「あいつは、運命に圧し潰されたのか?」
「圧し潰されまいと、必死に抵抗しているんだよ。運命を敵だと断じてしまったがゆえに」
運命を敵視する、か。
たしかに、今の俺はそうなっているのかもしれない。
「運命は生きていく上で切っても切れないものだ。味方につけるか、敵と見るかは、己の知恵一つでいくらでも変わっていく」
「だったら俺は、これからどうすればいい」
それすらも、わからなくなっている。
「ロートス。キミは、何のために生きている?」
「それは……」
「何のためなら、死ぬ覚悟ができる?」
「決まってる」
俺は、俺を慕ってくれるみんなのためなら、死んでもいいと思ってる。これまでもそうしてきた。転生者として、自分の命は軽いと思っているから。
「なら迷うことはない。それがキミの使命なんだから」
使命。
その言葉は、運命に翻弄される俺の心に深く突き刺さった。
「使命か」
そうだな。
やるべきことは、自分で決める。
この命をどう使うかは、俺自身が決めることだ。
「よし」
俺は立ち上がる。
「行くか」
結局、前に進むしかないんだな。
運命がどうだろうと、やることは変わらない。
俺が生きるのは、勝つためだ。
俺が死ぬのも、勝つためだ。
何に勝つって?
決まってる。
自分自身の、弱い心に勝つんだよ。
さっきみたいに足を止めてしまった、その臆病な心に打ち勝つんだ。
「戦争を止めて、サラを取り返す」
それが今の、俺の目的だ。
「そんでさ、みんなで魔法学園に戻って、自由気ままなスローライフを送るんだ」
そのためなら、今は別に目立ってもいい。
いくらでも目立ってやる。
もう腹は括った。
ここからが、俺の本当の戦いだ。
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