第187話 取り調べ

 そんなこんなで、一人で会議室に呼ばれた俺はギルドで起こったすべてをエルゲンバッハ大尉に話した。

 相槌を打ちながら聞き終えた大尉は、太い腕を組んで分厚い息を吐き出した。


「話はわかりましたぞ。ギルド長も貴殿も、お互い私情で動いたのですな」


「まぁ、そうかな」


 アデライト先生とフィードリッドを救う為でもあったし、単純に差別主義者が気に入らなかったというのもある。


「しかし貴殿の行いは、結果的に腐敗したギルドを是正する契機となった。国内の規律を尊ぶ軍人として、また一王国民として、礼を言いますぞ」


「ああ……どうも。とんでもない」


 老人に面と向かって感謝を述べられると、なんだか気恥ずかしい。この人は王国の英雄だというが、威張ったような感じはまったくないんだな。


「称賛すべきは、百人以上の上級冒険者らを撃破した貴殿の凄まじさですな。特にあのS級三位のオー・ルージュなど、某とて手こずるほどの手練れですぞ」


「まぁ、実際あいつを倒したのはヒーモだけどな」


「ご冗談を。子爵令息ヒーモ・ダーメンズが腑抜けであることは、一部の者はよく知っておる。貴族を貶めるわけではありませぬが、彼がS級を倒せるとは到底思えませぬな。ご友人の顔を立てようとお考えなのかもしれませぬが、このエルゲンバッハは騙せませぬぞ」


 軽快に笑う大尉。

 いや、本当に勘違いなんだけどな。まぁいちいち説明するのも面倒だ。真実はルージュの口から語られるだろう。


「これから先、ギルドはどうなるんです?」


 俺が気になるのはそこだ。

 アデライト先生は冒険者クラブの顧問だし、セレンにはS級を目指す夢を追いかけてもらいたい。ギルドがなくなるなんてことになったら、かなりの罪悪感だな。


「これほど大きな組織ですからな。国の一存でおいそれと潰したりはできぬでしょうが、上層部をごっそりと入れ替えるのは間違いないですな」


「次のギルド長には誰が?」


「まだ決まっておりませぬ。今のギルド長の処分も決まってないのですぞ」


 そりゃそうか。

 となると、ギルドにサラとルーチェの捜索をさせるのは無理かもしれない。この状態じゃあ、しばらくは軍の監視が強くなるだろう。


「何か気懸かりがおありか」


 俺がよほど深刻そうな顔をしていたのか、大尉も真摯な表情になっていた。

 うーむ。事情を話すべきかどうか迷ってから、やはり話すことにした。

 軍にどういう思惑があるのかはわからないが、少なくともこの人は信用できそうだ。


「実は――」


 これまで以上に神妙に話す俺の顔を、大尉は黙ってじっと聞いていた。


「家を燃やされ、従者を連れ去られた……と。さぞお辛いでしょうな、それは」


 そうだ。だからこそ一刻も早く二人を探し出さなければならない。


「家を燃やしたのはS級のルージュだ。自分で言ってた。けど、サラ達がいなくなったのはギルドのせいじゃないらしいんだ」


「従者たちがいついなくなったかはご存知か?」


 そういえば、ヒーモの奴がうちを訪ねてきてたって、アカネが言ってたな。

 聞いてみるか。


「詳しいことがわかったら軍部を訪ねてみるといいですぞ。某の名を出せば取り合ってくれるはず。捜索の力になれるでしょうな。男爵家の令嬢が行方知れずとなれば、軍も動かずにはおれまいでしょうから」


「……感謝しますよ、大尉」


 俺は急ぎ、会議室を後にする。

 とりあえずヒーモの野郎に話を聞かないとな。

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