第186話 肩書長い
王都に戻った俺達は、早速ギルドへと向かう。
ギルドとエルフの里を往復したわけだが、そこで俺達が見たのは、軽装鎧に身を包んだ兵士達であった。
「なんだこりゃ」
「王国軍の兵士達っすね」
ウィッキーが物珍しそうに彼らを眺める。
「冒険者ギルドに来るなんて、異例の事態ですよ。一体何があったというのです」
アデライト先生も驚いているようだ。
異例の事態と言えば、俺達が大暴れしたことだと思うんだが。
たくさんの兵士達がギルドの中を慌ただしく行き交っている。ところどころで激しい声が飛び、騒々しいことこの上ない。
「なぁあんた。何の騒ぎだ、こりゃ?」
「ん? ああ……これはね」
隅っこに追いやられた冒険者達に話を聞いたところ、どうやらギルド長が積み重ねてきた汚職が露見し、軍のガサ入れが入ったということだった。
「ま、公然の秘密だったからねぇ。軍も押し入るチャンスを窺ってたんじゃない?」
「ふーん」
まぁ、あのギルド長なら汚職まみれだろうな。結局、奴は自分の行いで我が身を滅ぼしたわけだ。身から出た錆。
アカネが言った、自分の行動が未来を決めるという話が、いよいよ信憑性を増してきたな。
「そういえば、昨日ここですごい事件があったらしいよ。ギルドは封鎖されてたから、詳しいことは分からないんだけど、その場にいたA級やS級が事情聴取を受けてるって話」
「……ふーん」
間違いなくあの事なんだろうけど、言いふらすようなことじゃないか。
そんな話をしていると、俺のもとに一人の兵士がやってきた。
「ロートス・アルバレス氏ですかな」
しわがれた声の大柄な老人だった。鉄の兜をかぶり、立派な髭を蓄え、剥き出しの腕は丸太のように太い。
「そうだけど。あんたは?」
「これは失敬。某は王国軍第一グリフォン師団第二グラキエース大隊第五シュヴァエト中隊所属のエルゲンバッハ大尉である。お見知りおきを」
肩書が長すぎてもう忘れたわ。
「シュヴァエト隊のエルゲンバッハ? まさか、『激震』のエルゲンバッハか?」
フィードリットが一歩前に出る。
「いかにも。そう呼ばれておる」
スキルがそのまま二つ名になった感じかな。
「知り合い?」
「いや、初対面だが……というか婿殿、『激震』のエルゲンバッハを知らんのか?」
「知らん」
軍人のことを知る機会なんてなかったもん。
エルゲンバッハが名乗ったせいか、俺の仲間達も、周りの冒険者もみな一様に驚いたような顔をしている。
え、そんな有名人なのか?
「んん。『激震』のエルゲンバッハといえば、王国の危機を何度も救った大英雄だね。生ける伝説とでも言うべきか。ドラゴンの中で最も凶暴とされるエンペラードラゴンの巣を、たった一人で駆逐したこともあるという。平民生まれの護国の英雄。その名は誰もが知っていると思っていたが……」
ヒーモがご丁寧に説明してくれるが、それがどれ位すごいことなのかはわからない。
「大袈裟ですな。某はただ任務を遂行しただけである。褒めそやされるようなことではない」
「ああ。平民ならそれくらい謙虚な方がいいね」
お前がもっと謙虚になれ。
それはともかく。
「その英雄様が俺に何の用ですか?」
「昨日の出来事を聞きましてな。貴殿が暴走したギルドを止めてくれたと」
「……詳しく」
アデライト先生がハーフエルフだということは知られてないのか。それが重要だ。
「一部始終をすべて聞かせてもらいましたぞ。諍いの原因も、あなたの活躍もな」
だったら、先生のことも知られていると思った方がいいか。
「そう怖い顔をなさるな。悪いようにはせぬ。たかが、といってはなんだが……ハーフエルフ一人のために厄介事を起こそうなどという愚か者は、ギルド長くらいでしょうな」
「だといいけど」
「ご安心めされよ。少なくとも軍部はギルドの清浄化の方がよほど大事であると考えておる。上官や兵士らの個人的な感情は別にしても、公の行動に出るといった愚は犯さぬ」
それなら、まぁそういうことにしておこうか。
「ではロートス殿。話を聞かせて頂けるかな。清く正しいギルドの運営を取り戻すために、我々はここに遣わされたゆえ」
「ああ、わかった」
サラとルーチェのことに協力してもらうには、ここは避けて通れない道だ。
もしかしたら、軍にも助けてもらうことができるかもしれない。
淡い期待かもしれないけどな。
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