第175話 後悔はない

 ひとまずエルフの里に戻ってきた俺達は、事の顛末を皆に説明した。

 聖域の近く。簡易的に建てられたコテージの中で、全員が神妙な面持ちをしていた。


「スキルの真実……興味深いお話ですね」


 アデライト先生は眼鏡をキラリと光らせて思案顔だ。元研究者だからか、こういう話は好きなのだろう。


「ふーむ。その『ホイール・オブ・フォーチュン』とやら、知識と意志で無効化できると言ったが、それならここにいる者達でなんとかなるのではないか?」


 フィードリッドがそんなことを言う。

 それに答えたのはアカネだ。


「自らの運命を操作された場合、それを無効化できるのは確かじゃ。じゃから、奴から押し付けられる死の運命は弾ける。じゃが、奴が自分の運命を操作した場合、そこの干渉することはできん。お互いに攻撃が通用しないというオチになるのじゃよ」


 なるほどな。だからアカネは早々に離脱したのか。


 それはともかく。

 世界の真実とやらもいいが、俺にはそれより目の前の問題を解決する方が先決だと思える。


「ヘッケラー機関に関してはしばらく放っておこうと思うんだが、みんなどう思う?」


「私達は別に構いませんけれど、向こうがどう出てくるかはわかりませんよ?」


 先生の言う通りなのだが、俺には一つ考えがあった。


「奴らは裏切者を狙うはずだ。先生とウィッキー、あとはシーラ率いる守護隊かな。だから、その皆にはここに残ってもらおうと思う。フィードリッドも含めな」


「守りを固めるということか?」


 フィードリッドの言葉に、俺は頷く。


「機関とギルドの両方に狙われることになるからな。その方がいいだろ。そして、それ以外のメンバーでギルドを襲撃する。つまりは、俺、アイリス、アカネだ」


 正直アイリスとアカネがいれば俺は必要ない気がする。でも、ギルド長の野郎をぶん殴ってやらないと気が済まないからな。行くぜ。


「私は?」


 どちらにも名前を挙げられていないセレンが、首を傾げた。


「セレン。お前はS級になるって夢があるだろ。冒険者ギルドに敵対させるわけにはいかない。だから、俺達に加担しない方がいい」


 ここまで来てセレンを除外するのは仲間外れにするようで胸が痛むが、仕方ない。俺の事情でセレンの未来を閉ざすわけにはいかない。

 セレンは相変わらずの無表情で俺を見つめている。何を考えているのかはわからんが、こいつなら賢い選択をしてくれるだろう。


「最後まで付き合うと言った」


 なんだと。


「ばか言え。S級の夢はどうする」


「諦める」


「はぁ? そこまでして俺に義理立てする必要はないぜ。クラス分け試験でのことなら、もう十分借りを返してもらってる」


 だが、セレンはふるふると首を振った。


「義理じゃない。それにS級が無理でも、もうひとつの目的が達成できたらそれでいい」


 もうひとつの目的って、あれか。お婿さん探しか。


「本当にいいのか」


「いい」


「後悔は」


「しない」


 参ったな。ここまで言われちゃ、無碍にはできない。


「わかったよ。セレン。恩に着る。今度は俺の方が借りができちまうな」


「いつか返してもらう」


「はは。ま、俺にできることならなんでもさせてもらうさ」


 こりゃ、お婿さん探しに協力してやるしかなくなったな。まぁセレンは美少女だし、すぐに良い男が見つかるだろうさ。


 気が付くと、アデライト先生の意味深な視線が俺に突き刺さっていた。

 え、なんだろ。


「はっはっは。なかなか罪な男だな、婿殿も」


 フィードリッドが愉快そうに笑っているが、何故だろうな。


 咳払い。


「とにかく、そういう感じの計画で行こうと思う」


 我ながらガバガバなプランだとは思うが、誰も反対しようとはしない。


 よし。


 シーラが加わった今、先にサラに会わせてやりたい気持ちもあるが、それは後回しになりそうだ。


 まずはギルドの件をなんとかしないとな。

 俺達はすぐに、王都へと戻ることにしたのだった。


 我が家に戻り、サラとルーチェにも会っていこう。

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