第148話 誰も文句は言えないの?
「ところでフィー。百年前、お前と一緒に出ていったあの人間の男。その後どうなったでやんす」
オーサは幼げな声に似合わない真面目な口調だ。
「ふむ。三十年は共に旅を続けたよ。だが、ワタシが身ごもった途端に姿を消しおった。どこぞのダンジョンに祝い品を取りに行くと言ったきり、戻ってこなかった」
「じゃああんたは、この子を一人で育てたでやんすか」
「ああ。あの男が蒸発した後、住み慣れたこの森に戻っていた。アディを産むまで、五十年」
「けどあんたの魔力を感じたことはなかったっす」
「当然だ。私は聖域にいた」
「身重で聖域でやんすか……それはまた危ないことをするでやんすね」
「お前らに見つかればどうせまた追い出すだろう」
「そりゃそうでやんすが」
オーサは呆れたように首を振っていた。
「ね、ねぇロートス」
それまで様子を窺っていたエレノアが、おずおずと口を開く。
「この人たちと知り合いなの? うちの学園の先生もいるし、同級生も……」
「ああ」
やば。どうしよう。ここまでくるとさすがに隠せないよな。というか隠す意味もないだろうし。
俺はなぜこんなにも学園にいることを隠そうとするのだろうか。自分でもわからない。
「その話はあとにしませんか? 今は目の前の問題がありますわ」
「え、ええ。そうね、あとで……」
アイリスが助け舟を出してくれた。よし、とりあえず後回しだ。
「すまんなエレノア」
「う、ううん。ごめんなさい」
別に謝ることはないのに。
さて。
「オーサ。積もる話もあるだろうけど、話を進めようぜ。エリクサーの件は、結局どうなる?」
「あっし個人としては、渡してもいいのでやんすがね。里の者達が何と言うか……エリクサーはエルフの秘宝でやんすから。たとえ恩人でもおいそれと渡すのは憚られる。先祖に背く行為だと騒ぐ者もきっと出てくるでやんす。さらに言えば、ハーフエルフがいるとなると反発は強いだろうでやんす」
「申し訳ありません。やはり私はここに来ない方がよかったのでは……」
ウィッキーを羽交い絞めにしたままのアデライトがしゅんとなる。
その隙に拘束から抜け出すウィッキー。
「気に病むなアディ。いずれは解決しなければならないことだ。百年前もそうだったが、種族が違うからと言って色眼鏡で見るのは感心せん」
「正論でやんすね。けどそれが受け入れられるかはまた別の問題でやんす」
「正しいものを正しいと見極められる者は少ない。それは人間もエルフもモンスターも、みな同じですわ」
スライムとは思えないことを言うなアイリスは。
いま必要なのは解決策だ。
「どうすればエルフ達を納得させられる? エリクサーを貰えないと困るんだが」
「わかってるでやんす。一番はアデライトの存在をみなに認めさせることでやんすね」
俺はアデライト先生を一瞥する。やはりしゅんとしている。
「どうすればいい?」
「エルフは『清き異国の雄』を神格化しているでやんす。百年前の男はそう思われなかったでやんすが、ロートスは違う。この里を襲撃者から救ったという実績があるでやんす」
俺何もしてなくね?
戦ってたのはエルフ達だし、助っ人はエレノアとアイリスだし。
まぁいいか。
そして、オーサは自信ありげに次のように言った。
「こういうのはどうでやんすか? 『清き異国の雄』の伴侶がハーフエルフなら、誰も文句は言えなくなるっす」
まじかよ。
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