第142話 エレノア、進化の兆し

 俺とエレノアとアイリスの三人は、オーサの家に招かれた。

 エルフ側はオーサと副長、そしてお付きのエルフ数人がいた。


 広い居間のでかい椅子に腰を下ろしたオーサは、向かいのソファに座る俺達を見据える。


 ちなみに俺は貰った布を身体に巻きつけて全裸状態を免れていた。古代ローマみたいな感じの服になっている。


「まずは礼を言うでやんす。あんたらのおかげで、里を守ることができたでやんす」


 驚いたのは、オーサが族長であることだ。

 いや、なんとなくそんな気はしていたけども。


「しかし、なぜ我々が襲われたナリか。ヘッケラー機関とは、一体何者ナリか」


「それは後で捕えた男にじっくりと聞くでやんす」


 そうだな。それがいい。俺達にもわからないし。


「それよりも、二人は本当にヘッケラー機関とは関係ないのでやんすね?」


「もちろんだ。名前だけは知っていたがな」


「そうなの? 私は初耳だったけど」


「前に知る機会があってな」


「ふーん?」


 エレノアとアイリスは俺の両隣に座っているため、俺は美少女二人に挟まれている。両手に花とはまさにこのことよ。


「で、そっちのモンスターはどうなんでやんす? かなり希少な個体っぽいでやんすね」


 オーサはアイリスを見てそんなことを言った。


 あ、これはやばいな。

 流石はエルフだ。アイリスが人間に変化したスライムであることを見抜いている。魔力の表情云々を読み取っているのだろう。


「モンスター?」


 エレノアが怪訝な声を出す。


 ううむ。今更隠しても仕方ないのかもしれない。

 いよいよバレる時がやって来たのか。


 アイリスは俺の目を見る。言っていいのか? とアイコンタクトをしてくれているのだ。


 この期に及んで、俺は悩む。


「ちょっと。確かにアイリスは怪物並みの強さだけど、モンスターっていうのは失礼じゃない?」


 意外なことにエレノアがオーサに異論を唱えた。

 オーサがモンスターと言ったのを比喩表現であると思ったのだろう。


「ん? えっと……ん? あー、そういうことでやんすか」


 オーサもなにやら察したようだ。


「モンスターといっても仲間。同じように扱えということでやんすね。あいわかったでやんす。アイリスとやら。あんたもあっしらに味方してくれるってことでいいでやんすね?」


「はい。もちろんですわ」


「それなら何も問題はないでやんす」


 なにやら情報の伝達に齟齬が発生しているようだが、まぁいっか。


 次に口を開いたのは副長だった。


「エレノア。お前は魔法を学びにここに来たと言っていたナリな」


「え、ええ。そうだけど」


「なぜ我々に教えを乞いに? 魔法の研鑽ならば人間の社会でもできるナリ」


「それは……えっと」


 エレノアは俺とちらりと見る。次いでアイリスにも視線を移し、すぐに俯いた。


「……強くなりたかったのよ。普通じゃないくらい。誰にも負けないくらいに」


「それで我々エルフを頼ろうとしたナリか。なるほどナリ」


 場に微妙な空気が流れる。


 それを破ったのはオーサのあっけらかんとした声だった。


「いいじゃないでやんすか! エレノアはこの里の恩人でやんす。総出で魔法を教えようでやんす!」


「え? いいの?」


 エレノアの顔にも花が咲く。


「好きなだけ魔法を学んでいくといいでやんす。『無限の魔力』があれば、我々エルフの魔法も自在に使いこなせるはずでやんすよ」


「ありがとう!」


 よかったなエレノア。最高じゃないか。


 ほんと、最高やな。

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