第130話 他に偽装するものがあるはずだ

 エルフ達はきゃーきゃー騒ぎながら俺の股間に視線を集中させる。

 ある者は指の隙間から、ある者はガン見。目を瞑ってそっぽを向く者も何人かいた。


「なに……?」


 俺のズボンをずり下ろしたエルフ達が驚愕に目を見開く。

 それもそのはず、屹立しているであろうと決めつけられていた俺の愚息が、まったくの無反応だったのだから。


「ふにゃふにゃだ」


「副長。これは一体?」


「わ、わからないナリ……おい! 貴様、どういうことナリか!」


 どうもこうも。


「言っただろ。俺はお前達に危害を加えるつもりはないって。だからいやらしい目で見たり、いかがわしい行為に及ぶつもりもない」


 というのは嘘だ。


 正直こいつらはエロすぎる。だってほぼ全裸だもん。

 趣のない露出度ではあるが、エルフはみんな美人で華やかだ。品のない格好でも、なぜか気品に満ち溢れている。


 だから、さっきまで俺の愚息はしっかり反応していたのだ。


 だが、俺にはクソスキル『偽装ED』がある。


 このスキルを発動した瞬間、俺の愚息は急速に元気を失った。

 一時的にだが、男性機能を強制的に低下させる。これはそういうスキルなんだ。


「ううむ。貴様は、他の人間の男とは違うということナリか……?」


「そういうことだ。俺は平和を愛する男だからな。お前達を不快にさせることは決してしない」


 今の俺は下半身を露出させているとは思えないほどに、かっこいい表情になっていることだろう。


「副長」


「わかっているナリ。これほどの人格者を殺すのは忍びないナリ。だが、掟は掟。投獄する以外に、我々にできることはないナリ」


 よかった。俺は胸を撫で下ろす。

 とりあえず、殺されることはなさそうだ。


 しかし、世の中奇妙なものだよな。

 まさかこんなことで命をつなぐことになるなんて。


「仕方あるまいナリ。この男を牢へ連れていくナリよ! あの女と一緒にぶち込んでおくナリ!」


「わかりました!」


 あの女?


 なんだ、他のみんなも捕まっていたのか。

 俺は男だから別にされていたってことなのかもしれない。


 とりあえず、一安心か。

 みんなが無事なら、まだ可能性はある。


 こうして俺は、エルフの村の牢獄に入ることになった。


「ここに入っていろ!」


 縛られたまま蹴りを入れられ、俺は牢屋に転がり込んでしまう。


「いってぇ……」


 もうちょっと丁寧に扱ってくれてもいいんじゃないか。

 人間に対するエルフの振る舞いなんてこんなもんなのかなぁ。殺されなかっただけありがたいと思わないと。


「うそ? ロートスなの?」


 牢屋の先客が俺を呼ぶ。


 おいおい、マジかよ。


「エレノア……」


 捕まっていたのは馬車にのっていたメンバーではなく、幼馴染の少女であった。

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