第129話 どっちかというとな

「聞く話なんかないナリ」


「俺にはある」


「……自分の置かれた状況を理解していないようナリね」


 理解しているとも。この上なく。


「そもそもなんでそんな人間を嫌うんだよ。俺は別にあんたらに危害を加えようとか考えてないぞ」


 俺の言葉に反応したのは副長ではなく、他のエルフだった。


「この恥知らずが! なにをいけしゃあしゃあと! 貴様ら人間の男がなにをしたか、憶えていないのか!」


「憶えるもなにも、俺はお前らに何もしてないし」


「関係ない! 同じ人間の男だ! あれからたかだが百年しか経っていない!」


「百年?」


 俺生まれてねーじゃん。

 いや、そんなことより。


「百年前なにがあったんだよ? 俺は知らねーぞ。生まれる前の話だしな」


「このッ――」


「待つナリ」


 激昂した女を、副長が制止する。


「たしかに、人間の寿命は我々に比べてはるかに短い。百年という歳月に対する認識が違うのも仕方ないナリ」


 お。なんだよ。ちょっとは話がわかるじゃないか。


「教えてやるナリ。百年前、何があったか」


 うむ。教えたまえ。


「あの頃、我々は森で倒れていた人間の男を助けたナリ。ちょうど、今の貴様のように村に連れてきたナリよ」


 俺は全然助けてもらえてないけどな。助けてもらえているのか? いや、ないな。


「ところがナリ! あろうことかその人間の男は、我々の姿を見るなり発情し、股間を膨らませたナリ! それだけでなく、善意で助けてやった我々に対し舐め回すような視線を向けてきたナリ!」


 ええ。


「加えて、皆が寝静まった後に、一人でいやらしい行為に及んでいたナリよ! 我々は自らの甘さを呪ったナリ。あんな汚らわしい生き物がいるなんて思わなかったんだナリ!」


 そんな。


「だから我々はその人間の男が回復するなり追放し、それ以降人間の森への立ち入りを禁じたナリよ」


 あ、一応面倒は見たんだ。殺したとかじゃなくてよかった。


 しかし、うーん。


「その男はエルフの誰かに危害を加えたのか?」


「実害は受けてないナリが、同じようなものナリ」


「エロい目で見られて、オカズにされただけなのに?」


「なっ」


 俺の言葉に、副長が顔を真っ赤にする。

 いや、副長だけではない。他のエルフの女達も、頬を染めたりもじもじしたり、あるいは忌み物を見るような視線を俺に向けたり、複数人でキャーキャー騒いだりしている。


 思春期の女子かよ。


 何百年も生きる種族のわりに初心すぎるだろ。

 逆か? 長命種だからこそ、子を産むという機会に乏しく、性教育が進んでいないのかもしれない。


「お前らさぁ。そんな格好しておいてエロい目で見るなって方が無理があるだろ。理不尽にも程がある。ほとんど全裸じゃねぇか」


「やはりお前も同類ナリ! 汚らわしい人間め!」


「副長! この男もどうせ、涼しい顔をしながらその股間の汚いモノをおっ立てているに違いありません! 化けの皮を剥いでやりましょうぞ!」


「え! おい待てって!」


 数人のエルフが俺を取り囲み、ズボンを脱がそうとしてくる。


「やめろ! 俺に化けの皮なんてない! どっちかというとズルムケだぞ!」


「ええい黙れ!」


 じたばたするも、縛られていては抵抗のしようがない。俺はあえなく下半身を露わにされてしまった。

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