第116話 タイムリミットまで
「しかし……フィードリット。おぬしさっき里を追放されたと言っていたな。それでエリクサーを手に入れられるのかの?」
ギルド長が俺の心を代弁してくれた。
「問題ない。というより、追放されていなくてもエリクサーを持ち出すのは至難だ。追放云々はあまり関係ないのだ」
「けれど里に入れないなら、より持ち出しにくくなるんじゃないかしら?」
「そうでもない。そもそもエリクサーは里の中にない。エルフの森の奥深く、聖域と呼ばれる場所に安置されている」
聖域とな。
「それって、里に入るより大変な場所なのか?」
「入ること自体はそう難しくないだろう。だが聖域には危険なモンスターが多く生息している。それこそ危険種に指定されているような奴らがうようよと」
「あのファイアフラワードラゴンよりも危険なのか?」
「はっ。ハナクイ竜など、聖域のモンスターに比べれば木っ端も同然。いいや、まず比較にもならん。それ故、里の者ですら滅多に近寄らん場所なのだ」
マジかよ。
そんな危険な場所に潜入しなくちゃいけないってのか。
「入念な準備が必要ですね。ロートスさん、私は学園の書庫で聖域についてなにか記述がないか調べてみます」
「ワシもギルドの記録を調べてみようかの。エルフの森に立ち入った冒険者にも聞き込みをしてみるわい」
「ならばワタシは一度聖域へ偵察に行ってこよう。二十年くらいでは生態系に変化はないと思うが、念の為な」
皆それぞれ準備をしてくれるようだ。なんとも頼もしい。
「セレン、俺達はどうする?」
正直ただの学生でしかない俺達にはそこまで大したことはできないんじゃないか。そう思っている。
セレンも知り合いがいなさそうだし。
俺の目をじっと見つめる彼女は、こころもち深刻そうに口を開く。
「ハナクイ竜に勝てないようじゃ、聖域に行くのは心許ない」
確かにそうだ。
「だから、特訓」
「特訓?」
「魔法の」
実力をつけるってか? 今からやっても付け焼刃にしかならん気がするけど。
まぁ、やらないよりは百倍マシか。
「なら、実行は三週間後でいかがですか? 学園はクラス対抗戦前の五連休に入ります。それを利用して、エルフの森へ向かいましょう」
アデライト先生。教師としての仕事とかは大丈夫なのだろうか。
いや、大丈夫だろう。汚職教師だし。
「三週間後だな。わかった」
フィードリットが頷く。
「ワタシも全力を尽くす。ギルド長、くどいようだが約束は必ず守ってもらうぞ」
「わかっておるわ。S級の件じゃろう」
その言葉に、セレンがほんの僅か反応した。
それについては昨日から疑問だったんだが。
「そんな簡単にS級にしちゃってもいいんですか? 確かにエリクサーを手に入れられればすごいですけど、ギルドには何の利益もないですよね?」
「ううむ……そうじゃな」
ギルド長は髭を弄りながら、
「実を言うとな。フィードリットの実績だけでいうなら、すでにS級でもおかしくはないんじゃ。二十年もの間、凄まじい戦果を上げ続けておるからな」
なのにB級ってのは、確かにおかしな話だ。フィードリットが文句を言いたくなるのもわかる。
「これも種族間の問題じゃよ。フィードリットをA級やS級にしてしまうと、人間からの反発が激しい。組織としてそれを無視するわけにもいかん。なかなか難しい問題なのじゃ」
「実にくだらん話だ。実のない連中ほど声がでかく、他人の実績に文句を言いたがる。言いたいことがあるなら、それなりの結果を出してから言ってもらいたいものだ」
そんなこと言いながら、俺の勲章とA級昇格にはすごい口を出してきたけどな。
まぁそれは状況が違うか。フィードリットの主張は正しいものだったし。
周りから見れば、その真偽や正邪の見分けがつきにくいってこともある。
「エリクサーを手に入れることができれば、人類史に名を遺す偉業を達成したことになる。そうなれば、誰も文句は言うまいて。冒険者連中も、フィードリットもな」
「違いない」
なるほどね。そういう事情があったというわけか。
俺は納得する。
「では、皆さんよろしいですね? 明日から早速動き出しましょう。ロートスさんとセレンちゃんは、学業が疎かにならない程度でいいですからね」
アデライト先生の言葉で、今夜はお開きとなった。
さぁ、三週間のうちに何ができるか。
俺もそろそろ努力を始めないとな。
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