第52話 決して不穏じゃありません
「それじゃ結局、俺はどのクラスに配属されるんですか」
「そうですねぇ」
アデライト先生は再びパフェを食べ始める。
「それは明日の正式発表まで教えられませんね。さすがにそこまで教えてしまったら私も上から怒られてしまいます」
「なにをいまさら。もう十分汚職じゃないんですか」
「そんなことはありません。試験は私に一任されていますから」
まったく呆れるな。王都の最高学府の教師がこんないい加減でいいのか。
「ロートスさん。あなたはどうしてそんなにクラスにこだわるのです? 成り上がりでも企んでいるのですか?」
「まさか」
思わず笑ってしまった。
なるほど、確かにこの学園に来るような奴はみんな自分を高めたり、地位や名声を求めることを狙っているのだろう。
だけど俺は違う。親に無理矢理入学させられただけで、なんの志もない。
「わかりました先生。俺も本心を明かします」
ぽんとテーブルを叩き、俺は先生の大きなおっぱいを見つめた。
「俺はベースクラスに入りたいんです。百歩譲ってもボトムかエリート。マスタークラスはごめんだし、スペリオルなんてもってのほかです」
「それはまた異なことを」
先生がパフェを口に運ぶ。
「毎年、新入生はこぞって上を目指します。だのにあなたは下を目指すと? 能力を隠す理由があるのですか?」
「隠す能力なんてありませんよ。俺は『無職』ですからね。誤解されたまま過大評価された日には、惨めになるだけです」
「ふーむ。なるほど……」
ついにパフェを完食した先生。気付けばサラとアイリスもパフェを空にしていた。
先生は席を立つ。
「クラス配属の件は考えておきます。ご馳走してくれたことに免じて、もしかすればあなたの意を汲んであげることが出来るかもしれません」
「マジですか?」
「できなくはないということもなくはない。そう言っておきましょう」
「え……」
結局どっちなんだよ。
配属されるクラスによって、俺の学園生活が決まると言っても過言ではない。先生にはちゃんと俺の無能ぶりを評価してもらわないと困る。クソスキルの集合体なんだぞ。
「先生、最後に一つ。教えてください」
「はい。なんでしょう」
首を傾げた先生に、俺は意を決して口を開いた。
「先生は姿を偽っていますよね? スキルを使ってまで、どうしてそんなことを?」
「それですか……」
先生の顔つきが変わった。今まで柔らかい表情だったのが、急に神妙なものになったのだ。
俺は唾を飲む。
「私のスキル『千変』は、自由自在に肉体を変化させることができます。このスキルの存在は学園長以外には秘匿していますが……何故かあなたは気付いてしまった。他人のスキルを分析するスキルでもお持ちなのですか」
「質問しているのは俺です」
俺にも譲れない一線というものはある。
「私の出生に関わることです。あまり聞いて欲しくはないのですけど」
「まさかとは思いますが……先生」
俺は拳を握り締め、深く息を吸い込む。
「おっぱいのサイズを偽っているなんてことは……よもやありませんよね?」
「……はい?」
「本当は小さいのに、大きくしているなんてことはないんですよね……!」
「え……ええ。ないです」
「ない? おっぱいがないと?」
「いえいえ違います。そんなことはしてないと」
「先生。それは真実ですか? 嘘偽りなく?」
「神に誓って。胸のサイズは偽っていませんってば。まったくどうしてそんなこと」
本当だろうか。
姿を変化させるスキルを持っている以上、口ではなんとでも言える。その場しのぎのごまかしかもしれない。
そんな俺の懐疑の視線を感じて、先生は溜息を吐いた。
「じゃあ……触ってみますか?」
「え」
「そこまで疑われてしまっては仕方ありません。このまま去れば、ロートスさん、あなたの心にもわだかまりができてしまうでしょう」
「ああ……ごもっとも。まったくその通りです」
俺は勢いよく立ち上がり、アデライト先生に詰め寄った。
「ストップ」
やんわりと俺の肩を押し、先生は微笑した。
「ここじゃなんですから……先生の部屋に行きましょう?」
なんということだ。まさか女性の部屋に招待されるとは。
「いいでしょう。では」
俺が手を差し出すと、先生がそっと握る。
「サラ、アイリス。しばらくここで待ってろ」
「ご主人様。あの――」
「いいな?」
「……はい」
反論を許さぬ俺の圧力が発揮された。
そうして俺と先生は、『てぇてぇ亭』を後にしたのだ。
はて、どうしてこんなことになったのか。
不思議でたまらん。
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