第49話 事実でも言ったらだめ
高い天井に響く声。エントランスはにわかに静まりかえった。
「答えるんだロートス! どんな理由があってそいつなんかと!」
「ええ……?」
なんのこっちゃ。
イキールとヒーモの家同士が仲悪いのはなんとなくわかったが、俺には何の関係もないだろうに。
「ふん。誰かと思えばできそこないのヒーモ・ダーメンズではないか。このような公共の場で喚き散らすとは、よほど品格のない家柄のようだな」
「爵位が上というだけで偉そうに振る舞うお前とは違う! 吾輩はダーメンズ家の嫡男。家の看板を背負っているのだ。だからこそ、自分のパーティメンバーを横取りされるなんてのは面子に関わるんだよ!」
「何を勘違いしているのかは知らないが、僕は道案内をしているだけだ。同級生としてそれくらいはするものだろう?」
「道案内だと? そんなもの館内マップを見たら済むだけの話! 言い訳するにしてももっと上手くやりたまえ!」
いや、本当の事なのに。
「あらあら。大変なことになってきましたねぇ」
アイリスが暢気なことを言っているが、そもそもお前のせいで道に迷ったんだからな。反省しろ。
やばいことに、エントランスの注目はすべて俺達に集まっていた。それもそのはず。貴族の子弟達が言い争いをしていたら、野次馬根性を刺激されるというものだ。俺も当事者じゃなければ絶対に興味本位で見るしな。
耳を澄ますと、周囲からひそひそと聞こえてくる。
「なんだなんだ? 喧嘩か?」
「ガウマン家とダーメンズ家のご子息が言い争っているようだぞ」
「ああ……仲が悪いと専らの噂だが、まことの話であったか」
「しかし、あの冴えない男は?」
「どうやら、あの冴えない男を巡って言い争っているらしい。パーティメンバーだとかなんだとか」
「なんと、人は見かけによらないのな。あの冴えない男が、まさか貴族のアプローチを受けるとは、よほどすごいスキルの持ち主に違いない。要チェックじゃな」
溜息。
なぜこうも目立ってしまうのか。
あと、冴えない冴えないってうるさいんじゃい!
イキールとヒーモは周りの目も気にせず口論を続けている。
「ダーメンズ家にはプライドというものがないのだろう? 代を重ねるごとに女に頼ることしか能がなくなっていくじゃないか」
「なんだと? まさか吾輩にそのような口を聞く度胸があるなんてな! 侯爵の息子とは名ばかりの妾腹の子が!」
ヒーモの罵倒が、イキールの顔から笑みを奪う。
「貴様……もう一度言ってみろ……!」
「はは。効いたのか? 出生に後ろめたさがあるのは辛いな。妾腹の子イキール・ガウマンくん?」
「……決闘だ! 貴様に決闘を申し込む!」
イキールはつけていた手袋をヒーモの足下に叩きつけた。
「おお? 望むところだ! 白黒つけようじゃないか! お前と吾輩! どちらかロートスを従えるにふさわしいか!」
いや待てよ。
お前らの家同士の確執に俺を巻き込むなよ。
「トホホ……」
肩を落とす俺の手を、サラが優しく握ってくれた。
「ご主人様。楽観主義でいきましょう? きっとなんとかなりますって」
「ああ。そうだな」
俺はそう信じ、サラの頭をよしよしするしかなかった。
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