第32話 のじゃロリ、覚醒
石像はゆっくりと拳を振り上げる。その顔は白髪頭に向いていた。
まずい。あいつは今動けないのだ。今度こそ殺されちまうぞ。
流石に目の前で死なれちゃまずい。俺の人生で忘れられないトラウマになるし、目撃者インタビューで目立つことにもなりかねん。
「くそがッ!」
俺は咄嗟に駆け出す。
「おい神! 俺は信じてるぞ!」
とにかく奴の気を引く必要があったから、それっぽいこと言ってみる。
すると、石像の動きがぴたりと止まった。
「お前わしのこと信じとるのか?」
瞳のない視線が俺を捉える。
「信じてる! 超信じてる!」
「嘘じゃ。わしはそんなの信じんぞ」
なんだよそれ。
石像は拳を振り下ろす。
「ひいっ!」
白髪頭に拳が迫り、その場が爆散した。
だが。
紙一重で当たらなかったらしい。白髪頭は吹き飛ばされ、気絶しただけで済んだようだった。俺が石像の気を引いたおかげだろう。そうに違いない。
「危なかったですね」
「ああ。だからといって何も変わっちゃいないけどな」
パーティメンバーは俺とサラ以外、全員気を失って戦闘不能だ。俺達二人でこの神型モンスターを倒せるとも思えない。
アデライト先生も人が悪い。こんなの新入生が戦える相手じゃないぜ。
「まったく。困った若様じゃ」
俺ははっとする。
そうだ。まだ気絶していないメンバーがいた。
「ロートスとやら、礼を言うぞ。あんな小僧でも一応は我が家の後継ぎじゃでのう」
のじゃロリ。
いや違う。
彼女は大人の姿になっていた。はだけた着物から覗く白い肩と艶めかしい谷間。健康的な太もも。濡烏の黒髪は腰まで伸び、妖艶な色気を醸し出していた。
言うなれば、のじゃ美女だ。
「若様は傲慢ちきじゃでな。気を失ってくれて幸いじゃった。これでようやく実力をだせるというものじゃ」
どういうことだ。これまでは力を隠していたってのか。
「神の名を騙るでくの棒なんぞ、わらわの『恵体剛力』でイチコロよ」
その瞬間、のじゃ美女は風になった。
凄まじい勢いで跳躍し、石像の顔面まで到達する。
「おりゃあ!」
彼女の蹴りが、石像の鼻を蹴り砕く。
「お前、わしを信じとらんのか?」
だが、石像に痛がる様子はない。両腕を振り回し、反撃を試みる。しかし、のじゃ美女は華麗にそれを回避していた。
「遅くてあくびが出るのう! それ、もう一発じゃ!」
着地したのじゃ美女は再び跳躍。今度は拳による直突き。のじゃロリのパンチが石像の顎を削り取った。
「すげぇ」
俺は素直な感想を口にする。正直あの子がここまで強いとは思ってもみなかった。白髪頭に虐げられる可哀想な従者を演じていただけか。あれじゃ棒で叩かれても痛くもかゆくもないだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます