第31話 動く石像はトラウマです

 霧の先は、大聖堂であった。 

 広大な面積。果てしなく高い天井。仰々しい壁画と、神々しいステンドグラス。


「はは。たまげたな」


 こんな大規模な場所がダンジョンにあるとは驚きだな。まさに神殿の名にふさわしい。


「すごいですね!」


「ああ」


 驚いているのは他のパーティメンバー達も同じだ。みな口々に感嘆し、大聖堂を見渡している。


「ほぁ~。これは中々じゃないか。吾輩の部屋にしたいくらいだ」


 白髪頭が馬鹿なことを言っている。こんなところを部屋にしたらベッドとかコタツの配置が大変だろうが。


「ご主人様、あれ!」


 サラが聖堂の奥を指さす。そこには台座があり、メダルの山が置かれていた。


「あからさまな罠だな」


「ですね」


 あんな分かりやすい餌に引っ掛かる奴なんているのか。


「おお! メダルだ! 吾輩が一番乗りだな!」


 ウソだろおい。

 白髪頭が我先とばかりに駆け出し、メダルのもとへと向かっていった。


「若様! お気をつけくださいのじゃ!」


 のじゃロリが慌てて追いかけるが、時すでに遅かった。

 巨大な石像が、直上から白髪頭の眼前に降ってきた。


「うわぁっ!」


「若様ッ!」


 間一髪でのじゃロリが追いつき、白髪頭を突き飛ばした。二人は踏みつぶされることさえ免れたが、強烈な衝撃によって吹き飛ばされてしまう。


「ボスモンスター……!」


 メンバー達が身構える。俺はサラの手を強く握り、一歩後退った。

 巨大な石像は、まるでギリシャ彫刻のような美丈夫だ。石膏で塗り固められたそれは、見上げるほどに大きい。俺の身長の三倍はあった。


「わしが神じゃよ」


 口を動かさずに出した声は、まるでエコーがかかったように反響する。


「お前らわしのことを信じとらんのか?」


 石像はそう言いながら、腕を振り上げ、俺達めがけて振り下ろした。


「やばいぞ!」


 俺は咄嗟にバックステップ。

 石像の拳が目の前の床を打ち砕いた。


「サラ!」


 衝撃で吹き飛ばされた俺は、空中で反射的にサラを抱きしめる。そのまま床に投げ出され、ごろごろと転がった。

 粉塵が舞い、俺とサラは激しく咳込む。


「ご主人様、ご無事ですか!」


「ああ。お前は?」


「ボクも平気です。ご主人様が守って下さいましたから」


 そいつはよかった。

 だけど喜んでもいられない。


 今の一撃で、パーティメンバーのほとんどが戦闘不能に追いやられてしまった。幸い死人はいないようだが、強烈な衝撃をくらった彼らは気絶してしまっている。


「くそっ! なんなんだこいつは」


 離れた場所で、白髪頭が喚いている。腰が抜けてしまったのか、尻もちをついたまま立ち上がれていない。


「おいっお前! ロートス! あいつを何とかしろ! 吾輩を助けろ!」


 俺は舌打ちを漏らす。

 馬鹿が。勝手に突っ込んでやられておいて何をいってやがる。


「サラ。どうする。逃げるか?」


「そうしたいのは山々なんですけど……」


 サラが背後をちらりと振り返る。俺もそれに倣う。


「まじか……」


 霧の壁が石の壁へと変わっていた。この大聖堂に、出口はない。


 万事休すだ。

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