第26話 はがゆい思いしちゃってんねぇ
「エレノア……!」
俺は飛び出しそうになる体を押さえ、唇を噛み締める。
くそっ。今ほどクソスキルを恨んだことはない。俺にもっと強いスキルがあれば、エレノアを助けられるのに。
「ご主人様……」
サラが心配そうな声を漏らす。
「サラ。俺達が加勢したとして、あのスライムを倒せると思うか?」
「正直、無理だと思います。ボクも多少は魔法の心得がありますが、簡単な補助魔法くらいしか使えませんから」
「そうか」
「すみません……」
「謝らなくていい」
俺に力がないせいだ。サラのせいじゃない。
スライムに吹き飛ばされたイキールは、華麗な受け身を取って着地していた。だが、ダメージは隠せていない。片膝をついている。
エレノアは、マホさんが受けとめていた。
「大丈夫かエレノア!」
「ええ……へいき、よ……」
片腕を押さえ、エレノアは立つのがやっとのような状態だった。ふらふらしている。
やがてスライムを覆っていた黒煙が晴れる。
「うそでしょ……?」
当然の如く、無傷。
フレイムボルトの雨あられをくらったはずのスライムは、すでに再生を終えて元通りになっていた。
「くそったれが……嫌な予感が的中しちまったな」
マホさんが悪態を吐く。
俺はサラに尋ねる。
「あれはどういうことだ。すげぇ爆発してただろ」
「スライムは魔法生物なのです。なので、肉体は魔法をもとに作られています。標準的な個体は、斬ったり殴ったりである程度小さくなると死滅しますが、あれくらいの大きさになるとそうはいきません」
サラは魔法だけではなく、モンスターにも詳しいらしい。
「そして、極めつけはあのコピースキル『底なしの欲望』です。エレノアさんの『無限の魔力』をコピーしているなら、肉体の再生に使える魔力も無限なんです。だから……」
「勝ち目は、ないってことか」
「……残念ながら」
ふざけんな。そんなのアリかよ。チートじゃねぇか。
「おい坊ちゃん! こりゃあ流石に無理だ! 逃げた方がいいぜ!」
「だが……くそ……!」
イキールも分かってきたようだ。あのスライムは普通じゃない。このまま戦えば、敗北は必至だと。
頼むから早く逃げてくれ。
「マホさん。どうするの?」
「いいかエレノア。このままじゃアタシら全員あいつの腹ん中だ。人を喰って味をしめたんだろうな。腹を空かせて、アタシらを取って食おうとしてやがる」
俺はサラと顔を合わせる。
サラはきょとんとした様子だったが、俺にはとあるひらめきがあった。
「サラ。脱げ」
「えっ」
「早く!」
「やっぱりするんですか? こんな状況で襲われちゃうんですか?」
「違うわボケ! ローブを貸せって言ってんだ!」
半ば強引にサラからローブを引っぺがす。
「ああっ。ご主人様ったら大胆……!」
「一生やってろ」
俺はローブを羽織ると、フードを目深に被って広場へと飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます