第22話 茂みに押し倒すのはまずいですよ

 慌てていたせいで、サラを押し倒すような形になってしまったけど、この際しかたない。


「ご、ご主人様こんなところでっ」


 真っ赤になるサラ。


「ボクまだ心の準備が――」


「静かにしろ」


 エレノアに見つかってしまう。俺は咄嗟にサラの口元を押さえた。

 深い茂みの中。俺とサラは無言で見つめ合う。


「声出すんじゃねぇ」


 耳元で囁くと、サラはぴくんと体を震わせて、それから小さく頷いた。

 わかったらいいんだ。


 エレノアの足音が近づいてくる。どうやら一人じゃないらしい。

 そりゃそうだ。あいつにはマホさんがついてる。


「なんだか、気味の悪い森ねぇ……」


 エレノアの声だ。俺は息を殺す。


「だから言ったじゃねぇか。神殿にしとけばよかったのに。なんでわざわざ強いモンスターが出るところを選ぶんだよ。安全なところでぱぱっと終わらせちまえばよかったのによー」


「マホさんの言うこともわかるわ。けど、たぶんどのダンジョンを選ぶのかもクラス分けの評価基準になると思うのよね」


「へぇ? そうなのか?」


「じゃないと、ダンジョンを分ける意味なんてないでしょ? 易きに流れてしまえば、その時点で魔法使いとしては低評価ってことになるんじゃないかしら」


「はぁ。なるほどねぇ。魔法使いってのは難儀なモンだな」


 藍色のワンピースを着たエレノアと、メイド服姿のマホさん。マホさんの方は身長くらいもある馬鹿でかいメイスを背負っている。なんじゃありゃ。


 二人は俺が隠れている茂みの近くを通り過ぎていった。


「それにしては、モンスターなんて影も形もないけどな」


「油断しないでマホさん。あのアデライトっていう先生。なんか一筋縄じゃ行かない感じがするのよね。何が出てくるかわからないわ」


「はいはい。わかってますよっと」


 奥へと進んでいった二人に、俺はほっとする。

 どうやら見つからずに済んだようだ。なんとか危機を脱したな。


「ご主人様……」


 俺の下敷きになっているサラが、潤んだ瞳で見つめてくる。


「パンツ脱いだ方がいいですか……?」


「発情してんじゃねーよバカ」


 それに俺は自分で脱がせたい派なんだ。


 それはともかく。


 エレノアの奴。聞き捨てならないことを言っていたな。選んだダンジョンで評価が変わるだと? それじゃあ強欲の森林を選んだ時点で高評価ってことか。それはまずい。

 俺はベースクラスに行きたいってのに。


「ほら、立てサラ」


「は、はい」


「さっきの話。どう思う?」


「え、すみません。興奮しすぎて全然聞いてませんでした」


「ほんっとお前……」


 俺も人のこと言えないけどさ。


 しかし、これからどうすべきか。適当に時間を潰そうと思っていたけど、このままエレノアを行かせてしまったら、あの化け物スライムと戦うことになる。

 貴族のイキールでさえ苦戦する相手だ。最悪の場合、死ぬってこともあり得る。


 それだけは、避けなくちゃならねぇな。

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