第三十話 穢れ身の者
呪術者とは、名の通り呪術を使う者のことである。そう柳楽は説明した。組織で動く者もいるが、たいていは個人で呪術の研究を行っていることが多い。
そもそも日本の呪術とは、世にある怨念や恨みみたいな強い感情を力に変換して、対象を苦しめるために効率よく運用することを目的に編まれた技術体系なのだそうだ。それ以外は単純に『
ようするに呪術とは、この世の不思議パワーをしっかり管理する術なのだ。それが失敗すると、
だから柳楽は彼女の所業に激怒しながらも、その身についていた呪詛を浄化したのだ。
呪詛に触れることは、命に関わることだから。
「だから今の時代、呪術とは禁忌に近い。己か他者か、誰かの身を必ず傷つける。常人の身で扱おうなどと思わないことだ。それを承知で使うということは、よほどの自殺志願者か、他人の犠牲なんて
そう隠しきれない嫌悪ほのめく笑みを作る柳楽に、俺は言葉を返すことができなかった。
『僕は人間が嫌いだよ。他人を馬鹿にして、追い落として、醜いったらありゃしない。死体を蹴って得意になるような、そういう何の益にもならないクソな人間の多いこと。あっ、だからって皆嫌いってわけじゃないよ。
他の奴は
学校モードの柳楽ではないが、誰であれ己を着飾ることはあるだろう。俺だって生徒の保護者とかが来たら背筋を伸ばすし、柳楽の前だと理性的に振る舞うようにしている。
皆の前と、俺の前。どちらが勝政の本当の顔だったかは俺には分からない。どちらも本当で、どちらも無理した姿だったかもしれない。
それでも、と俺は思う。勝政が俺と共にいた時間は、きっと嘘ではなかったはずだ。
そう思っていたからこそ、久しぶりに見た
柳楽の知り合いからの情報提供で、
落ち合う場所はちょうど、山尾先生の死体が上がった川沿いだ。元から人通りが少ないのに、死体が出たからかさらに人気がない。放課後だというのに近隣の学校から響くはずの声もなかった。うちの高校みたいに部活動が一時的に
簡素な堤防から、柳楽と並んで川辺を覗き込む。砂利ばかりの河川敷、時間通りに現れた男の姿を臨む。
随分様変わりしていたが、それは勝政に違いなかった。目が細く丸顔で、耳の先が尖っている。男にしては小柄な体躯なので、昔はからかわれることも少なくなかった。勝政は自分を笑う奴を無視していたが。
当時は男子にしては身なりに気を遣う男だったのに、今ではシャツがくたびれ背中は曲がり、目元には深い
「春高先生も人の事言えないだろう」
「んなこと分かってるよ。喧嘩売ってんのか」
「いや、理解しているならせめてその無精ひげは
小声のつもりだったが聴こえてしまったらしい。
「よお、
ぎごちなく
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