第39話 戦い終わって

 戦いを見守っていた【パルセノス】のメンバーたちは、


「彼ら、本当に倒してしまいましたね。まさかあの状況から倒してしまうとは思いませんでしたね」


 セルジュが冷静に状況を見て言うのに対してシンシアは、


「そ、そうですね」


と、上の空な返事を返す。この時のシンシアは直人たちの戦いを見終わり、(凄いわ、レベルが低いはずなのにあれだけの戦いが出来るなんて)と感心していた。


「上の空って感じだね。もしかして惚れちゃった?」


 ローゼがニヤニヤしながらシンシアをからかう様にそう言うと、上の空であったシンシアは焦った様子で、


「はっ、違うし、カイ君たちの戦いに感心していただけよ」


 必死な様子で言うシンシアを見たローゼは、さらにいやらしい笑みを浮かべ、


「へえー、そこは直人君たちじゃなくカイ君たちなんだね」

「んなっ! べ、別にどっちでも同じでしょ。深い意味はないんだからね!」


 シンシアがローゼにそう言い返すもののローゼは突然、空を見上げると全てわかっていると言わんばかりの悟ったような表情をしながら、


「そうだよね、意味とか理屈じゃないのよね。恋っていいよねー。あぁ、なんて美しいのかしら」


 舞台であるかのように芝居がかった様子で語るローゼにシンシアは、


「だから違うんだって、戦いに見とれていただけなんだって! もうー、セルジュ何とか言ってやってよ!」

「そうですね、恋は美しいと言うのは幻想ですよ! 言うなら恋とは素敵な勘違いです! 現実はただの発情期でしかないのです。そこは欲望渦巻く戦場です、お花畑な考えで踏み込めば大怪我は免れませんよ。十分に気をつける事です」


 セルジュのあまりにも的外れな発言に唖然とし、言葉を失う二人だったが、先に立ち直ったローゼが、


「ちょっ、何でそうなるの? なんか恋に恨みでもあるの?」

「いえ、特には、私はだだ現実を直視しているだけですよ」

「だからなんで直視したらそうなるのよ!? 普通思いやったり支え合ったりとかでしょ。なんで欲望とか出てくるのよ?」

「それが真実だからよ」


 ローゼとセルジュの言い合いに苦笑いを浮かべていたシンシアだったが、長くなると感じたシンシアが割って入った。


「はははっ、まあこの話はこの位にして、カイ君たちに挨拶しに行きますよ」

「そうですね、そうした方が良いでしょうね」


 シンシアに賛同するセルジュに先ほどの会話に納得の行かないローゼが、


「なんでよ、別に挨拶なんて何時でもできるでしょ?」


 そう言うと、セルジュは冷静な様子で、


「タイミングの問題です。時を逃すと挨拶しずらいでしょ」

「……」


 ローゼの沈黙を納得したと判断したシンシアたちは、直人たちへと挨拶に向かった。




 直人たちは戦いが終わり話し続けていると、突然Gさんがクラリッサに尋ねた。


「クラリッサ、あの時おぬしは致命傷を受けたはずじゃ。しかしおぬしはあの短時間で、どうやって戻ったんじゃ?」

「あれ、直人から聞いていませんか?」


 クラリッサはえっ知らないんですか? と言った様子で尋ね返すとGさんは


「何の話じゃ? わしは聞いておらんぞ」

「そうでしたか。私は改造人間なんです!」

「なんじゃとッ!!」


 両目を大きく目を見開き驚く、そんなGさんに対してクラリッサは、


「はい、なのであの程度では死ぬ事はありません」

「ほほぉ、便利な体じゃのぉ」


 そう言うGさんは感心したようにクラリッサの体を見ていると、


「おいGさん、それセクハラだぞ!」

「カイ、おぬしはわしをどんな目で見とるんじゃ!?」

「いやいや、それは立派なセクハラっスよ。アウトっス」


と騒いでいると【パルセノス】のメンバーが近づいて来ている事に気づき、直人以外の全員が警戒しながらそちらを見ると、


「彼女たちは敵じゃない、安心してくれ」


直人がそう言うと、皆の警戒心が薄れていく。


「皆さん初めまして、パルセノスのリーダーのシンシアです」


 シンシアが自己紹介を終えると、皆が自己紹介を始めた。一通り自己紹介が終わると、直人が仲間たちにこれまでの経緯について話した。


「なるほどな、そう言う事だったのか」


 事情を理解したカイがそう言っていると、突然Gさんが何かを思い出した様な素振りをみせ、


「そう言えばあいつらはどこじゃ?」


 Gさんがそう言うと皆が何の事かわからず首を傾げる中、皆を代表する様にカイが尋ねた。


「Gさん何の話しだ? あいつらとは誰の事だ?」

「ロキとノアの事じゃ」


 【パルセノス】のメンバー以外の全員が思い出した様にハッとした顔をし、皆がロキとノアの名を呼び探し始める。


 突然の事に理解できないシンシアは直人を呼び止め尋ねる。


「誰を探しているんですか?」

「獣人の双子です」


と直人が答えていると、嬉しそうなGさんの声が響いた。


「おおっ! 二人共無事じゃったか」


そこには馬車の陰から出て来たロキとノア、二人の姿があった。


 実はゴリラ―ドが現れた時にダニエルに言われ、ロキとノアはスケルトンたちが護衛していた馬車の中に身を潜めていたのだった。壮絶な戦いを目の当たりにして怯えていた事もあり、馬車から出るタイミングを失った二人はそのまま隠れていたのだった。


 二人の無事を喜びリカルダへ戻ろうとしていた直人たちは新たな問題に直面していた。馬車の前に置かれたゴリラーテとゴリラ―ドの死体を前に、


「どうすんだよこれ!?」


 直人はカイとGさん責める様そう言うと、


「どうするって言っても、なぁー」


とGさんにカイが振ると、


「そ、そうじゃのぉー」


 適当な相槌を打ち誤魔化そうとするGさん。


「お前たちのせいだろ! また馬車に乗りきらないんだぞ。もう俺は往復しないからな、二人で責任を持って運んでもらうからな」


 直人の発言に焦るカイは、


「直人ちょっと待ってくれ、俺たちは仲間だろ。仲間ってのは辛い時や苦しい時も、共に乗り越えて行くものだろ」


 そう言い必死で訴えるカイだが、実は狩りの際は狩りばかりに集中しており、運搬中もモンスターを見かければ運搬そっちのけで狩りをしていた。その為、あまり運搬はしておらず、その言葉には説得力はない。


 だが、そんなカイの言葉に同調するGさん。


「そうじゃのぉ~、仲間は助け合わんとのぉ~。うむうむ」


 カイに賛同し、自分で言った事に自ら相槌打つという器用な事をするGさんだったが、


「いやいや、Gさん。あんたはそれらしい事言ってるけど、本当はただやりたくないだけでしょ」

「なっ、何を言っておるんじゃ直人、わしはそんなことは思っておらんぞ。ホントじゃぞ」


 必死に訴えるGさんだが直人は信じておらず、冷ややかな目で見つめる。そんな様子を見てシンシアが近づいてくる。


「何を言い争っているんですか? なにかトラブルですか?」

「いえ、別に大した事じゃ――」


 シンシアの問いに直人は気を使わせない様に返答しようとしていたが、Gさんによって遮られた。


「ええところに来たのぉ。聞いてくれ、直人の奴がカイとわしだけで運搬しろと言うんじゃ」

「おいおい、大事なところが抜けてんぞ。それだけ聞いたら俺が悪いみたいじゃないか」

「お、落ち着いてください。どう言うことですか?」


 直人たちがシンシアに事情を話すと、


「なるほど、そう言う事でしたら私が運びましょうか?」


 失礼なことにもシンシアが大量のモンスターの死体を運ぶのを想像したのだろう。三人は驚いた表情をしながらシンシアと積まれた死体を交互に見る。それに気づいたシンシアが、


「違います、違いますからね。マジックバックを持ってるんですよ。間違っても私を怪力女と思わないでくださいね」


 シンシアの提案より、問題も解決し直人たちはリカルダへと帰るのだった。

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