パドゥアの戦い 07



 戦闘開始から36分―


 天頂方向に配置していた偵察艦からの通信が次々と途絶え、アルデリアン大将はロイク艦隊が天頂方向にいると予想し天頂方向に配置されている艦に上部へのエネルギーシールド展開を指示する。


 戦闘開始から40分―


 ロマリア侵攻艦隊主力部隊は、ガリアルムの3艦隊にビーム、ミサイルによる弾幕を張られ、それを防ぐためにシールドにENを割いている為に、推進機関に回せず突撃の機会を中々得られないでいた。


 だが、このままの状況を続ければ、突撃もできずに戦力を消耗して、敗北は必至である。


 更にロマリア侵攻艦隊にとって状況は悪化しており、最右翼のルイ艦隊が、500隻の数的優位と物資の差によって、最左翼艦隊の数を徐々に減らしていた。


 このまま、手をこまねいていれば4艦隊による包囲攻撃を受けることになるであろう。


 ロマリア侵攻艦隊の司令部が取れる選択肢は3つで、<降伏する>か、このまま戦闘を続けて<殲滅>するか、突撃して突破できるかに<賭ける>かである。


「だが、今更突破を選択しても遅い。敵艦隊が15万キロの距離を突進する間に、我々は敵の約8割を殲滅することができる」


 ヨハンセンはモニター見つめながら、一人そう呟いた。


 フランとヨハンセンの作戦は、拿捕艦隊1700隻と戦場に居ないロイク艦隊1000隻で、老朽艦艦隊3000隻を心理的に拘束することに成功しており、更に主力部隊はガリアルム8300隻対ロマリア侵攻艦隊7000隻という局地的な数的有利を生み出すことにも成功している。


 その状況から、突進してくる敵艦隊に2方向からの猛攻撃を加え、被害を増大させ更に兵力差を広げていく。


「彼らは我々の猛攻撃を受けて、被害が出たとしても当初の目的通りに突進を続けるべきであった。老朽艦から物資を接収した時点で、3000隻は戦力外となり支援は望めないのだから」


 そのような推測から敵の老朽艦艦隊が動かないと読んだフランは、ワトー艦隊を敵主力部隊の攻撃に参加させ3方向からの攻撃をおこない、敵主力の戦力を更に削る。


「敵に絶好の機会があったとするなら、我らが猛攻撃を行なった後だ。補給を考えたら、あんな攻撃10分から15分近くしかできない。そこまで被害を我慢して、我らが補給している所に突撃してくれば、その突撃に対応しきれなかったであろう」


 フランの発言通り、猛攻撃によって戦力の3分の2の艦は物資とENが乏しくなっており、フランとヨハンセンの軍事的天才でなければ、補給中に被害が出ていたかもしれない。


 だが、二人は敵艦隊が速度を落として、こちらと同じ陣形にしようとしているのを見るとその隙に少しだけ後退して、絶妙なタイミングで交代させながら少しずつ補給をおこなわせ、それを何度も繰り返して補給を完了させる。


 そのため、少しずつの補給のために防御優先の戦いになり、その間の攻撃力はどうしても下がってしまい、そこに突撃を仕掛けられたら防ぎきれなかったのだ。


「自分達には突撃して、突破する以外の作戦はないと決断して実行したはずなのに、敵の司令官は、前衛艦隊の被害を目の前にして決断が揺らぎ判断を誤ったのだ」


(私なら、いくら被害が出ようとも…)


 フランは心の中でそのような冷徹な考えを持ったが、不意にルイの事が頭を過り、その瞬間自分の心が酷く醜く思えてしまい、そんな自分を彼がどう思うだろうかと思うと胸が締め付けられる思いがして頭を振って思考の外へと追い出す。


 彼女の銀色の髪が左右に揺れるのを見て、クレールはどうしたのかと思い声を掛ける。


「どうかなさいましたか?」

「私ならこの状況どうするかと考えていた」


 頭を振った本当の理由は伏せて、差し障りのないところだけ答えるフラン。


「殿下なら、どういたしますか?」


 この天才ならこの状況でどうするのかと興味を持ったクレールが、フランに質問すると彼女からはこう返ってきた。


「私なら、我が軍がサルデニアを進発した時点で、一度ボローナかマントバまで後退する。そこから状況を見て、どう動くか決める」


「つまり、この状況ではどうすることもできないと?」


 フランはその質問には答えなかった、認めてしまうとそこに油断ができるかもしれないと思ったからである。


 その頃、ロマリア侵攻艦隊総旗艦の艦橋で、アルデリアン大将が苦渋の決断をおこなう。


「艦隊を密集させ紡錘陣形にし、敵陣突破を狙う…」


「閣下…。今からでは突破は難しいかと…。ですが、このままでは殲滅されるのも時間の問題であるのは確かです」


 参謀のマイアー中将は、司令官に投降の選択肢がないなら、こう返事を返すしかなかった。


 こうして、参謀達の賛同を得たアルデリアン大将は再突撃の準備を始めるが、その決断は遅すぎたと言わざるをえない。


 ロマリア侵攻艦隊の主力部隊は、開戦より40分で既に最左翼を含めて4200隻まで減らされており、紡錘陣を組むために密集したことにより、自らガリアルムの包囲を縮めてしまう。


 密集し始めた所に天頂方向から、この機会を待っていたロイク艦隊がビームとミサイルの雨を降らして、シールドに一気に負担を与えて撃沈させていく。


 ロマリア侵攻艦隊の主力部隊は、密集していた為に回避行動が取りづらく、上下前方左からの激しい十字砲火にまともに晒され、フランの予想通り次々とデブリへと姿を変えていった。


「老朽艦艦隊が主力部隊に加勢する前に、一気に攻勢をかけて主力部隊の戦力を削ってそれを阻止します。全艦に攻勢の命令を」


 ルイはシャルトー大佐に、麾下の艦隊に攻勢を掛けるように命じ、それに呼応するようにガリアルム艦隊全体が攻勢を開始する。


 ルイ以外の指揮官も同じ考えで、ここで一気に主力の戦力を削る判断をして、麾下の艦隊に攻勢の指示を出した。


 そうしなければ、ロイク艦隊が戦場に現れて、奇襲を受けない状況になった老朽艦艦隊が、味方の危機を助けるために動き出すかもしれない。


 その判断を下す前に敵主力部隊を降伏するまで削りきれるか、物資が切れるかの勝負になるが、この勝負はガリアルムの勝利となる。


 天頂方向のロイク艦隊は、味方艦隊が攻撃を加えている主力部隊に対して主に前方と左側面を攻撃するなど工夫して、他の各艦隊もできるだけ十字砲火を意識して効率よく敵艦を撃沈させていく。


「さあ、諸君! 更に一歩前出て、私を喜ばせてくれ!」


 フランは全艦隊を再度鼓舞すると、駆逐艦のビーム砲が届く距離まで包囲を縮めて、殲滅速度を上げる。


 この行為は防御力の低い駆逐艦を危険に晒すことになるが、その分火力があがりロイク艦隊参加から約20分で敵主力部隊を1000隻近くまで減らす程の攻撃力を発揮した。


 こうして、パドゥアの戦いの勝敗はほぼ決まり、戦いは最終段階へと向かう。



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