パドゥアの戦い 03


 時は遡る事、ルイがマントバ要塞攻略に進発した3日後―


 戦闘の後処理が一段落済んだフランは、各艦隊の司令官を総旗艦ブランシュの作戦会議室に集めて、迫りくるロマリア侵攻艦隊との戦いに向けて作戦会議を行なっていた。


「貴官達を今回この場に集めたのは、諸君らの作戦や策を聞きたいからだ。よって、貴官達の活発な議論や討論を期待する」


 だが、各艦隊司令官といっても、フランとヨハンセン、ロイクの三人だけであり、後は参謀長のクレールだけなので、議論も討論も白熱しようがない。


「アングレーム提督、何か意見を出せ」


 そこで、フランは取り敢えずロイクに意見を求めることにした。


「そうですな… 数で劣っている以上、まともにやっても被害が大きくなるだけです。ここは、略奪中の敵艦隊を我が艦隊で奇襲して、敵をこちらの有利な場所まで誘引して、決戦に挑むというのはどうでしょうか?」


 意見を言い終わったロイクが、フランを見ると彼女がキョトンとした顔で、自分を見ていることに気づき理由を聞いてみる。


「その顔は、なんですか?」

「いや、真面目に返して来るとは思っていなかったのでな…」


 自分で意見を求めておきながら、まともな答えを返してきたロイクにフランは驚いていた。


「殿下、小官ことロイク・アングレームは、本日まで軍人としての責務に真摯に向き合ってきたと自負しております。それなのに、そのおっしゃりようは些か言葉がすぎるのではないでしょうか?」


 ロイクは低音のいい声を意識してそう答える。


「そんないい声で弁明しても、オマエが仕事中に執務室の端末でエロ画像を漁っているのを知っているからな」


 フランは少しジト目気味で彼を見ながら、そう言うとそのロイクはこう反論した。


「なっ… なんの話か小官にはさっぱり…」


 ロイクは、”サングラスを掛けていなければ、泳ぐ目でバレていたな”と思いながら否定したが、その表情で周囲にはバレバレである。


(それに、閲覧記録は消去している。バレるはずはない、これはブラフだ!)


 ロイクが冷や汗をかきながらそう思っていると、その心を呼んだかのようにチート姫様がこう言ってきた。


「閲覧履歴を消しても、サーバーのログで解る事を失念していたようだな!」


 フランは誤魔化すロイクに閉じた洋扇を向けて、決定的な証拠を突きつける。


「しまった!?」


 さすがのロイクも証拠を突きつけられれば、仕方がないので大人しく認めるしかなかった。

 そして、同時にこう思う。


(エロ画像の話、今関係なくないか?)


「殿下、それぐらい許してあげてください。『童の者』である彼には、せめて画像ぐらい見させてあげましょう。暇な時とはいえ、勤務時間に見るのは論外なので、罰金を課しますけど」


 クレールは蔑んだ目でロイクを見ながらそう発言し、フランも哀れんだ目で彼を見ながらこう言ってきた。


「そうだな。『童の者』の楽しみを奪うのは、酷というものだな。休み時間なら見てもいいぞ」


「あー、遂に『童の者』って言ったよ、この『性悪黒ロリ』に『鉄仮面女』。誰が『童の者』だ! まったく、失敬な!」


「誰が性悪黒ロリだ!」

「誰が鉄仮面女ですか!」


「そもそも、今エロ画像関係ないだろが! それに、ルイ君だって見てるよ! きっと、漁ってるよ!」


 ルイの預かり知らぬところで、彼に飛び火する。


「それは、年頃の男の子ですから、彼も見ているでしょう。アナタと違って、仕事中には見ていないと思いますが」


 クレールはこのようにフォローしたが、フォローになっているかは微妙であった。


「仕事中に見たのは、すみませんでした!」


 ロイクは仕事中に見ていたことは素直に謝罪する。


「フフフ…。甘いな、二人共…。ルイが使う端末は全て私が遠隔操作で、そのようなもの見られないようにゴニョゴニョしたから、見ることも漁ることも出来ないのだ!」


 フランにとっては、それは酷いことでもなんでも無いので、彼女はさらっととんでもないことを暴露してしまう。


(可哀想に…)


 そして、その事を聞いた二人は少し引いてしまっている。


「じゃあ、エロ本だな」

「エロ本ですね」


「エロ本も私が(勝手に)検閲して、年下モノ以外捨てている!」


 フランは何故か少し勝ち誇った感じで、そう言い放つ。


(この黒ロリ姫、酷すぎる! よくルイ君は大人しく従っているな…。これが草食系男子とうやつなのか…)


(でも、年下モノを残すのは、優しさなのでしょうか…)


 その頃、ルイは知らぬところで思わぬ火傷を負わされているとは知らず、マントバ要塞攻略の作戦をその進軍中に練っている。


 三人の言い争いの側でヨハンセンは、一人思い悩んでいた。

 そして、彼は悩みに悩んだ末に自分の考えた作戦を、フランに進言することにする。


 彼が悩んだのは、フランの恐らくあの明敏な戦争の天才なら自分の考えた作戦もしくは、それに匹敵する作戦を思いついているであろうと思ったからだ。


 そして、そうであった場合彼女の性格次第では、自分を冷遇する可能性もある。


 それに有能すぎる部下が粛清されるのを歴史から学んで知っている彼は、彼女の覇業が完遂した後に最悪自分がそうなるかも知れないと考えたからであった。


 だが、彼女も人間である以上、失敗を犯す可能性もあり、その結果多くの将兵が犠牲になるのを己の保身の為に見過ごすことは出来ないと考えたヨハンセンは、意を決しフランに発言する。


「僭越ながら、私が考えた作戦がありまして、それを殿下に聞いていただきたいのですが」


 三人は年長者のヨハンセンが真面目な空気で語りだしたので、くだらない言い争いをやめると静かになった会議室でフランはこう答えた。


「ああ、聞かせてくれ。私としても有能な貴官が考えた作戦にはとても興味がある」


 フランに発言の許可を得たヨハンセンは、自分の考えた作戦の説明を始める。




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