サルデニア侵攻開始 02



「戦いたくないとおっしゃるなら、どうして艦隊司令官を続けていらっしゃるのかしら?」


 シャーリィは彼の戦いを否定しながら、艦隊指揮官の任に就いている矛盾の説明を求めるが、実は彼女はその理由をフランから事前に聞いていた。


 ヨハンセンは前回の反乱軍討伐で、指揮していた艦隊にほぼ被害を出していない。

 彼は自分の戦史研究の知識が、役に立ったことに内心では喜びを感じていたが、それと同時に自分の指揮によって、敵味方の命を奪ったことに対しても責任を感じていた。


 そのため彼は、フランに自分の知識を活かす場に、艦隊指揮官ではなく士官学校での教官の職を求めたが、彼女から却下されてしまう。


 フランはヨハンセンの軍事的才能を高く評価しており、前線での艦隊指揮でその知識と才を発揮することを願いこのように彼を説き伏せる。


「貴官の気持ちはわからなくはない。私だって先の討伐戦では、自ら指揮をとって、多くの命を奪ったのだからな…」


 フランは憂いを帯びた目で、自分の白い手を見ながら彼にそう語りかけた。

 彼は目の前にいる自信に満ちた17歳の少女が、その白い自分の手が血で汚れていることを自覚し、自分と同じように苦悩を抱えているのだということに気付く。


「だからこそ、我々はその犠牲になった命のためにも前線で命を懸けた戦いを続け、この国に住む現在と未来の人々が犠牲にならない世界を作り出せねばならないのではないか?」


 ヨハンセンは自分より年下の少女が、そのような強い意思で自分の罪と向き合い、正解かどうかはわからない。だが、戦い続けることで現在と未来の者たちに平和をもたらすことで、自分なりの罪滅ぼしをしようとしていることに心を打たれる。


「そのためには、我々はまだ戦わなくてはならないし、そうなれば犠牲者も出る。ならば、我らのような才あるものが前線で指揮を取り、せめて味方の犠牲を減らすのが務めではないか?」


 ヨハンセンはフランの考えに感銘を受けると、自分の弱さを認めて艦隊司令官を頑張って、これから行われる凄惨な戦いでせめて味方の犠牲を減らそうと決意するのであった。


 フランがこの若さで、戦争による罪の重さに耐えられるのは、チート級の図太い神経を持っているというのもある。しかし、自分の罪を既にルイが半分背負ってくれている、そして将来的には罪ごと自分のすべてを背負ってくれると、そのようにヤンデレ思考全開でいるからであった。


 ヨハンセンは前述のフランとのやり取りから、決意した自分の本意を白ロリ様に語る。


「初めは王女殿下との、階級が上がれば広報に異動させるという約束の為でした。ですが、今は戦史研究で得た知識を使った艦隊指揮で、せめて味方の被害を抑えることが出来ればと思っています」


 味方の被害を最小限にして最大の戦果を上げるためには、自分の立てた戦術通りに艦隊を迅速かつ正確に動かさねばならず、そこで、シャルロットの天才的な艦隊運動の手腕が必要なのだと、ヨハンセンは彼女に説明をおこなう。


 その説明を聞いたシャーリィは、彼に意地の悪い感じで尋ねてきた。


「貴方は、余程自分の軍事的才能に自身がお有りなのですね」


 白ロリ様の質問に、彼は自分の考えを述べる。


「いえ、シャルロット様。私はそこまで自分の才能を過信してはいません。先程も言いましたが、私は戦史研究で得た知識を状況に合わせて使うだけです」


 彼はこう考えている……

 戦史とは過去の人間が実際におこなった戦いの記録であり、そこに記された戦闘時の判断や思考は同じ人間である今の人間にも必ず当てはまる。


 だから、状況に合わせて過去の戦いから近いものを選び、それを基にして戦術行動を組み立てれば戦いに勝利する。と……


「なぜなら、人間の思考と営みは、良くも悪くも過去の人々からさほど変わってはいません。その最たる例として、人間は今でも戦争をしているではないですか?」


「そうですわね……」


 シャーリィは彼の持論を聞いて、そう一言だけ言った後、しばらく黙って考え込んだ後にこのようなことを言ってきた。


「ヨハンセン閣下、お話大変参考になりましたわ。それでは、私はこれで失礼いたしますわ」


 彼女はそう言って、その日は配下になるかどうかを答えずにその場を去り本日に至る。

 ここにいるということは、自分に力を貸してくれるということだと思い、彼女に改めて歓迎を込めた挨拶をおこなった。


「シャルロット様、これから宜しくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。頑張って、味方の被害を減らしましょう」


 二人は挨拶を交わした後に、握手をするとさっそく艦隊運動の練習を始める。

 一月二十日、フランは公言通りサルデニア軍人の捕虜約3千人を、拿捕した補給艦5隻に詰め込んで、【サルデニア王国】の国境までリュスの艦隊に護送を命じた。


 事件が起きたのは、リュスが国境まで護送してから三日後の一月二十三日で、サルデニア王国軍は輸送艦に乗っていたのは自軍の捕虜ではなく、自国を内部から崩すための【ガリアルム王国】の工作員であるとして、捕虜達を乗せた輸送艦をすべて撃沈したのであった。


 そして、生き証人である捕虜の存在を消したサルデニア政権は死人に口なしで、改めて”我が国が<ガリアルムの反乱を工作した>というのは、【ガリアルム王国】の我が国を攻めるための策略である“と公表し、捕虜の家族達には国の為に口外しないようにと脅迫をして黙らせる。


 だが、人の口には戸は立てられずに、今回のサルデニア政府の暴挙はその真相とともに、事前に潜入していた本当の工作員によって、口伝えで巷に広まっていき国民に現政権への不信感を与える事となった。




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