新体制 02



 フラン新体制による国政が始まり、彼女はまず自分の新政権と印象づける為にという理由で現閣僚を解任して、自分とクレールが選んだ人物にすべて入れ替えていく。


 続けてフランは今回の反乱を未然に防げずに、国王夫妻を危険に晒した責任として、軍幹部のことごとくを解任もしくは閑職に追いやった。


 フランは軍部における三つの要職、国防大臣、艦隊司令長官、軍令部総長を兼任して、国防大臣の補佐としてクレールを、軍令部総長補佐として元艦隊司令長官アンドレ・バスティーヌ大将を任命する。


 アンドレ・バスティーヌ大将は、反乱時に冷静な判断で迅速に討伐艦隊を派遣したとして、責任を軽減され艦隊司令長官職の辞任だけで許されていた。


 軍人として優れた能力を持った彼の才能を惜しんだフランが、反乱前から彼とだけは接触しており今回のことを伝えていたのだ。


 彼も昨今の軍の腐敗ぶりにはうんざりしていたが、老齢であるために改革するだけの気概もなかった。


 そこで、フランから反乱軍を利用した軍の大改革の話を聞かされた彼は、最後のご奉公としてこの案に賛同して反乱に気付かないふりをして、他の者達と一緒に失態を演じて軍を去ることを選んだ。だが、フランの説得を受けてその経験を活かした補佐役を引き受けたのである。


 そして、フランは艦隊も再編して第一艦隊に自分を第二艦隊は欠番として、第三艦隊にヨハンセン、第四艦隊にロイク、第五艦隊にリュスを各司令官として任命をおこなった。


 更に各星系にある軍の造船所には、戦闘艦の造船を急ピッチでおこなわせて、戦力の増強に努めている。


 その頃、ルイは士官学校に戻って特別授業を受けていた。

 それというのも、この世界では大半の国が7月中間で卒業若しくは終業で、9月が入学式であり8月現在は本当なら夏休みということになる。


 だが、ルイはその7月分の授業と試験を反乱軍討伐で受けることができなかったので、その分を今の時期に特別に受けているのであった。


 そのためルイはその課程さえ収めれば、晴れて士官学校卒業となるのである。

 ルイはこの半月くらい朝から夕方まで授業を受け、それが終わるとフランの執務室に呼び出された。


 その呼び出される内容は、


 <士官学校の課程は順調か?>

 <食事はきちんと取っているのか?>


 <このケーキは、なかなか美味しいぞ>

 <オマエの顔が…見たくなったのだ…(照)>


 <さっきここに来る前に、廊下で女性士官と何か話していたな? 怒ってないから正直に言ってみろ、お仕置きしてやるから(怒)>


 など、どうでもいいことばかりであった……


 ある時など執務室に向かう廊下の角で、フランが「いっけなーい、遅刻遅刻―」と棒読みで<ガリアルムパン(フランスパン)>を咥えているにも関わらず器用にそう言って走ってくる。


 そして、廊下の角で体当たりをしてきて、ルイをふっ飛ばしたその後に執務室で「あー、あなたはあの時のー」と、これまた棒読みで偶然の再開を演出してくる茶番につきあわされた。


(流石はフラン様だ…。アレ程の激務でもこんな茶番が出来る余裕があるなんて…)


 ルイは改めて彼女のチートっぷりに感心しつつも、一連のフランの行動に対してこう思う。


(フラン様は、性格に<難>がある人だから友達が僕以外にいないから、きっと寂しいんだな…)


 そして、ルイは8月の初め頃にある事を考えついて、彼女に呼ばれた時に提案してみる。


「フラン様。今は夏休みですから、お友達のメアリーに旅行がてらに来て貰うのはどうですか?」


「そうだな……。それも…いいかもしれんな。早速連絡してみよう」


 フランは少し考えた後に、洋扇を広げて口元を隠しながらそう答えた。


 彼女が洋扇で口元を隠す時は何か良からぬ事を考え、思わず悪い笑みを浮かべているのを隠すためであることを、ルイは長年の付き合いで知っているからだ。


(自分は何か不味いことを、提案してしまったかも知れない…)


 ルイはそう不安にかられるが、自分の思い過しだと思うことにして心の中でこう思った。


(ごめん、メアリー…)


 だが、そのルイの罪悪感が薄れる出来事が起きる。

 何とその彼女の方からパリスに遊びに来たのであった。

 彼女は反乱が終わったと知らせを受けると、二人が心配で士官学校に短期の休学届を出して、会いに来たのだ。


 彼女が面会を求めて来ると、フランはそのチート能力をフル発揮して政務を完璧に終わらせ、その日の午後には面会できるようにした。


「メアリー、よく来てくれた!」

「フラン様も、お元気そうでなによりです」


 フランは初めてできた同年齢の親友との再会を喜んだ。


(感動の再会だ…)


 ルイは、その親友同士の再会シーンを見て嬉しく思いながら、メアリーに滞在予定日数を尋ねる。


「メアリー、いつまでパリスに滞在するんだい?」

「そうですね…。あまり学校を休むわけにもいかないので、2~3日でしょうか?」


 パリスから士官学校のあるロンデンまでは、約四週間掛かるため三日後に帰国の途についても、到着は9月中頃になり既に授業が半月は始まっていることになった。


 ルイにそう答えたメアリーに対して、フランは紅茶を一口飲んでから、優しい笑顔で彼女にこのような事を話し出す。


「メアリー。これからのオマエの暮らす所は、本日からここパリスだ。だから、帰る日数なんて考える必要はないぞ」


「え?」

「え?」


 その突然の話に内容が理解できず、ルイとメアリーがキョトンとした顔でいると、フランは説明を続ける。


「王立士官学校は私が叔母上と話を付けて、飛び級卒業となったから安心していいぞ。誰かさんと違って、優秀だったから話も早かった」


 フランは、自分の隣に座るその誰かさんであるルイを横目で一瞥してから、更に<メアリーガリアルム移住>の話を続けるのであった。

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