反乱軍鎮圧 07




 愛娘の冷酷なまでの策略を聞いた国王は、暫くの間驚きで黙っていたがこの様に尋ねた。


「では、オマエは始めから彼らを犠牲にするつもりだったという事なのか?」


 彼女は父親の質問に、冷静な表情と声でこのように答える。


「父上。サルデニアの目的が反乱を起こさせる事なら、彼らでなくても国民や軍隊を何らかの理由を作って、煽り反乱を起こさせていたでしょう。国民や軍隊が一度反乱を起こせば、今回のように最小限の被害で抑えるのは、それこそ不可能で多くの犠牲が出た筈です」


 そして、最後にフランは冷徹な光を宿した淡い青い瞳で、父親を見つめながらこのように述べた。


「それに、始めにも言いましたが、犠牲の祭壇に載ったのは彼ら自身なのです」


【サルデニア王国】とフランに誘導されたとはいえ、不当に得ていた特権を取り返そうと反乱を選択したのは彼らである以上、その顛末の責任は彼らである事は確かである。


「そうだな…」


 国王はそう考えると、こう呟いて娘の考えを肯定した。

 シャルルは過去の事を話し終え、次は未来の事を尋ねる。


「ところで、フラン。サルデニアとは、やはり戦争を行うのか…?」


 フランは、国王に開戦理由を説明し始めた。


「はい。今回の反乱はサルデニアによって、仕組まれたものだと公表しなければなりません。そうしなければ、今回の反乱が起きた責任の一端が我が政権にあると、風評する輩が出てくるでしょう」


 フランの説明はこうである。


【サルデニア王国】の謀略であると公表しなければ、反乱が起きたのは政府の政策に問題があったと評する者が国内外から必ず現れ、その意見を受けて政権の対応が悪かったと政府を避難する者が国民から出てくるかもしれない。


 それを防ぐためには公表するしか無く、そうすれば【サルデニア王国】との関係は彼の国の認否に関係なく悪化するのは明白である。


 そして、国を反乱により混乱に導いたのが彼の国の陰謀と知った国民の怒りは、当然【サルデニア王国】に向くことになり、国内世論は戦争に向かうであろう。


 公表時にフランがそのように煽るためだが……

 フランの説明を聞いた国王は、次のような疑問を投げかける。


「とはいえ、彼の国の戦力は我が国の半分だ。関係が悪化するとはいえ、向こうからは仕掛けてこないと思うが…」


「確かに、今は攻めこないでしょう。ですが、ドナウリアのロマリア侵攻が終われば、サルデニアはドナウリアの援軍を得て、我々の公表を<事実無根の公表による敵対行為>として宣戦布告してくるでしょう」


 フランは父親にそう説明したが、ロマリア侵攻で戦力を消耗したドナウリアが、同盟国の頼みとはいえ、何ら自国にとって益の少ないこの戦いに直ぐに援軍を出すかは疑問であり、彼女の被害妄想のようにも受け取れる。


 国王の考えは彼女とは違っており、数年は攻めて来ない、若しくは時間の経過によって時期を逸して、侵攻そのものが無くなるのではないかというものであった。


 そうであれば、こちらから仕掛けるのは<藪をつついて蛇を出す>結果になるのではないかという思いに駆られる。


「サルデニアとの戦争をおこなえば、兵士達にも当然多くの犠牲が出るし、戦費による財政への圧迫にも繋がる。避けられる目があるなら、避けるべきではないか?」


 国王シャルルは、このような思想の持ち主であった為に、在位中は一度もこちらからは戦争をしてはいない。


 彼のこの方針により【ガリアルム王国】は、数十年平和を謳歌したが、外圧の驚異がない国家は総じて内部から腐敗するものであり、彼の治世で腐敗は更に進行し財政危機を招くという皮肉な結果となってしまった。


 だが、フランは国王のその意見を、真っ向から否定する。


「確かに戦争を回避できるかもしれません。ですが、国家の命運を握る為政者が、そのような楽観論で国家の命運を決めるわけには行きません。常に最悪の事態を想定しながら、国家方針を決めるべきです」


 今回の場合の最悪な事態とは、【ロマリア王国】を手に入れた【ドナウリア帝国】が戦力を更に増強させ、その大規模な援軍を得た【サルデニア王国】が万全の体勢で侵攻してくる事だ。


 そうなれば【ガリアルム王国】だけでの対処は困難であるし、例え同盟国の【エゲレスティア連合王国】の援軍を得ても長期戦は免れず、当然人的にも財政的にも、そして戦場となる国土にも大きな被害が出るであろう事は容易に想像がつく。


 以上の推考により、導き出した結論をフランは父親に述べる。


「ドナウリアのロマリア侵攻の状況を見つつ、こちらの軍の準備がある程度済み次第、サルデニアに開戦を挑むのが、我が国の犠牲を最小限で抑えることが出来る最善の手なのです」


 フランが【サルデニア王国】と戦争したい理由は実はもう一つあり、それは財政問題であった。彼女が進言した二つの経済改革案だけでは、軍事増強とその維持費に掛ける財政的余裕がないのが現状で、このまま行けば後数年で財政は破綻するかもしれない。


 だが、開戦が決まればそれを理由に一時的にも増税することができ、それを軍事費に充てることが出来る。


 戦争に勝利して領土拡張か賠償金を得ることができれば、当面の財政問題は解決できるが、もし敗北することになれば再び財政を立て直すのに、長期の苦しい年月を要することになるであろう。


 フランの計画は、意外と綱渡りのような危うさを持った計画であるが、彼女は判断を誤らなければ充分勝算があると考えている。


 そして、彼女にはそれをやり遂げるだけの才能があった。


 彼女は大きな覚悟でこの計画に挑んでおり、もしこの計画が最悪な失敗をした時は、命で償うと決めている。


 ルイと無理心中というヤンデレ特有の彼にとって最悪な方法で…



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