ロックってのは生き様なんだよ

唐突な話だが聞いて欲しい。
イギリスはウェールズ出身のマニック・ストリート・プリーチャーズというバンドがいる。90年代初頭にデビューした彼らは本国ではもう大御所、国民的バンドと呼んで差し支えない大物だ。

しかし、現在のアー写には、三人のメンバーの姿しか映っていない。

四人目が、いたのに。

リッチー・ジェームズ・エドワーズは、マニックスの「作詞担当」で、ライブでは一応ギターをさげていたが、演奏はできなかった。作曲と歌唱はジェームズという別メンバーが行い、ベースとドラムはかろうじて聞ける程度の演奏技術だった。

だが当初一番人気だったのはヴォーカルのジェームズではなくリッチーだった。整った顔立ちと独特のファッションセンス、そして自傷行為に代表される精神的な危うさがカルト的な、いや、「的な」ではなくカルトそのものの人気を得、多大なる支持を得た。

ところが三枚目のアルバムを出した後、ツアー前日に、リッチーは失踪する。
彼の車は自殺の名所で発見されたが死体は見つからなかった。すると世界各国で目撃情報が報告されるようになった。

一年半沈黙を守った残り三人は、リッチーの家族の希望もあり活動を再開する。
その復活曲が大ヒットして今のマニックスがあるのだから皮肉なことこの上ない。

そして2008年、イギリスの法律により、失踪から一定期間が経過したことで、リッチーは「死亡認定」された。


……枕にしては長すぎる話でしたホントすみませんマジごめんなさい!!

でもでも、俺は本作を読みながら、何故かリッチーのことを思い出していたんです。
狭き門を夢や人生の目的、生き甲斐、として、もしくは「食っていく手段」として設定してしまうと、当然ながらこの物語の主人公のような人々があふれかえる。
そしていつしか己の限界を知り、「諦め」たり「プランを変更」したりせざるを得ない。なぜなら食っていけないから。
生活? 収入? 家賃? 食費? ブルシットだ。結局金かよ。どうやらそうらしいが。

   ◇

武道館で何度かライブをしたバンドのメンバーと話す機会があった。経緯は忘れたが、何故かマニックスの話になった。ヴィジュアル面にあまり興味を持てない、と言った彼に、

音だけ好きなら、リッチーは嫌いなん? と聞くと、彼はこう答えた。

「生き様だからね、あの人は。ロックでしょ」

もうね、この台詞! この台詞を本作の主人公に捧げたくて仕方がない!!!
これを書くためだけに長々と蘊蓄を書いてしまいました本当に申し訳ございません!!(土下座)

でも筆者さまも私の近況ノートに書いてくださったんですけど、ロックな上にロールしている話ですよね。
「ロックするのは簡単だ、ロールするのが難しい」といったのはストーンズのミック・ジャガーだったかキース・リチャーズだったか。どっちでもいいけど、本作はまさにそれら両方を見事に鳴らしている。

直球で言ってしまえば、こういったテーマは普遍的だし、ロックのみならず様々なジャンルで様々な形式で描かれている。でもねぇそれが四畳半で27歳になった瞬間ギターを、しかもテレキャスを破壊するってもう、嗚呼、好き。

長々と書いてしまいましたが、高い文章力に裏打ちされた素晴らしい「諦念の先の希望」小説だと思います。刺さる人には刺さるがな!(例:八壁ゆかり)

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